FC2ブログ

ヤ サ シ イ セ カ イ 7


ファンタジーなダーク系のお話です
再び一人目の主人公による少女騎士物語です


表で公表している事情により、しばらく停滞します

 ヤ サ シ イ セ カ イ ~シンパシーリング 2


***:ウィーグル(リタ)


 盗賊の男が、慣れた手つきで少女騎士用の甲冑を身に付けていく。
 これまで鎧など簡素な肩当て程度しか使ってこなかったが、ウィーグルはそれらを難なく着こなしていった。
 伸縮性など皆無の金属板が見事にフィットし、少女騎士用ならではの稜線を作る胸当てすら違和感をもたらさずにはまっていく。
 それもそのはず。彼の肉体は、あの血と酒に汚れた薄汚い姿ではなく、清く正しく鍛えられた少女騎士・リタのものだった。
 魔道具シンパシーリングで彼女と身体を入れ替え脱獄に成功したウィーグルは、これから始まる近衛騎士団の訓練を受けるため更衣室に潜り込み、リタの装備に着替えていた。
 もちろん、卑怯卑劣を信条とする盗賊たちのトップだった男が、守護の盾たらんとする騎士道に目覚めたはずもない。すべて近衛騎士団を陥れるための画策である。
 一人一人の実力や人間関係。それらの詳細を知り、最終目標である姫騎士アトラを掌握する手はずが整うまで、ウィーグルは少女騎士の一員として身を潜めるつもりだった。
「ねぇねぇ、聞いた? ドラウザ大臣のこと」
「知ってる知ってる。マジキモイよねぇ」
 同僚達はリタの正体に気付くことなく、柔肌をさらして噂話に花を咲かせている。
(鎧を身に纏っていなければ、ただの小娘だな……)
 更衣室にいる顔ぶれは全員若い女で、採用条件で指定されているのかと思うほどに容姿も軒並み優れている。一人か二人ほど男と見間違えるような厳つい女もいるが、ほとんど美少女ばかりと言って良い。
 しかし彼女達に見た目どおりの可憐さなどない事を、ウィーグルは身をもって知っている。
 身体を交換したリタは新米騎士だったが、それでも元の肉体より身軽に動く事が出来た。
 線は細くとも、大の男に引けを取らない力の持ち主ばかりだ。
 最強の男レギオニウスは当然として、近衛騎士団もうまく始末しなければアトラには到底届かないだろう。
「リタ…………リタ!」
「うおぉ!?」
 突然叫ばれ、今は『リタ』が自分の名前だったことを思い出し慌てて振り返る。
 背後には甲冑に身を包んだ、リタと同じ年頃の少女が立っていた。
 頬には湿布が貼られ、傷が痛むのか声を出すたびに顔をしかめている。
「もう、なにぼーっとしてるのよ」
「う、うん。ごめんね」
 ウィーグルは特に意識することもなく、リタ本来の柔らかな口調を使っていた。
 これも魔道具の力だ。
 シンパシーリングは、カラダのみならず、口調や仕草、記憶にいたるまで相手と交換する。
 騎士団の訓練があることも、更衣室の場所も、そして少女用の鎧を着る手順すら戸惑うことなくこなせたのは、すべてリタの記憶を利用したおかげだった。
 その記憶が、目の前に立つ少女の名前をウィーグルに知らせる。
「何か用? リエーレ」
 自分より少しだけ先輩の、厳しくも優しい友人だ。
 頬の怪我は、盗賊を追撃した際に負ったものらしい。アトラにナイフを投げ逃走した女盗賊の行方は、いまだにつかめていない。
 リタの記憶を読んだウィーグルは続けて盗賊時代の記憶も呼び起こし、その女盗賊がディーザであることを確信する。
(しぶとい女だからな……たぶん、どっかで生きてるだろう)
 再び出会う事があったら、ぜひとも仲間に加えたいところだ。
「リタってば。もう、またぼーっとして……盗賊の世話係がつらいのも、わかるけどね」
 うんうんと一人で勝手に納得し、とつぜん顔をこわばらせて頬を押さえる。
「あいたたた…………と、ところで、今日は実技訓練よね? 一戦やらない?」
 実技訓練は、鎧を身に纏い剣の形を模した鉄板で試合を行う、実戦を想定した訓練だ。リエーレとも何回か剣を交えたが、勝てたことは一度もない。
 だがそれは、リタが『リタ』だったときの成績だ。
「……うん、いいよ。やろう」
 盗賊行為という実戦経験豊富な『ウィーグル』からしてみれば、過去の対戦など児戯に等しい。
(新しい身体の実力を試してみるか……くひひっ)
 剣を手に取り、鞘から抜く。
 鏡のように磨かれた刀身には、嗜虐的な笑みが浮かべるリタの顔が映りこんでいた。


*:アトラ

 姫騎士アトラは渡された報告書を読み、ため息をついた。
 盗賊団のリーダーを捕らえたはいいが、手下達の居所はいまだにつかめていない。国境を防衛する山間警備隊にも協力を仰ぎ先日から山狩りをさせているが、成果は思わしくなかった。
「ま、たった一日で見つける方が無理よね」
「ですが、アジトで一塊になっているだろう今こそが、一気に捕らえる絶好の機会です」
 アトラの傍らに控える黒鎧の男は、その場から微動だにすることなく口だけ動かす。
「頭領を失ったと知れば、手下どもはバラバラに行動するでしょう。放置すれば、第二第三の盗賊団を結成するやも知れません。……多少強引な手を使ってでも、ウィーグルから拠点を聞き出すべきかと」
「拷問にかけろってこと?」
 レギオニウスの意見に、アトラの目が忌避するように細められる。
 いくら悪党が相手とはいえ、無抵抗の人間を傷つけるなど騎士道に反する行為だ。だが、より多くの人々を守るためには仕方のないことだと言い訳をする自分もいた。
 騎士の誇りと民衆の平穏が天秤にかけられ、大きく揺らぐ。
「姫様のお手は煩わせません。許可していただければ、あとは全て私にお任せください」
 王国最強の男が感情をにおわせない口調のまま、うやうやしく片膝を折り頭を垂れた。
 あとはたった一言、彼に「任せる」とだけ伝えればきっと万事がうまくいく。
 姫騎士が威厳を持って頷こうとした、その直後だった。
「し、失礼します!」
 ノックもされず、突き破るような勢いで執務室のドアが乱暴に開かれる。
 慌てた様子で入って来たのは、騎士団の少女だった。
「何事だ。姫の御前であるぞ」
 レギオニウスが立ち上がり、無作法な部下をねめつける。最強の男の眼光に一瞬ひるんだものの、少女騎士は気丈に耐え非礼を詫びた。
「も、申し訳ありません。急ぎお伝えしたいことが……と、とにかく大変なんです!」
 武人足りえない未熟な少女は、金切り声を上げてまとまりのない報告をする。
 それは、にわかには信じられない内容だった。



 少女騎士たちが取り囲む輪の中心には、鎧を着たリタとリエーレが対峙していた。
 リエーレは普段の気さくな顔つきを完全に取り払い、まるで仇敵を見る目つきで相手を睨んでいる。
 対する少女は涼しい顔どころか面白がるような表情で、唇をニヤニヤと吊り上げていた。
「くひひ……どうしたんですか、リエーレ? もうおしまいですか?」
「くっ……えぇぇぇぇい!」
 リエーレが競技用の剣を振るい、リタに飛び掛る。
 中段の構えから繰り出された一撃は相手の剣戟によって受け止められ、続けてもう一度、甲高い金属音が鳴り響いた。
 だが三合目を切り結んだ瞬間、リタの両手からするりと剣が抜け落ちる。勢いをそらされバランスを崩したリエーレの横っ面に、すかさず拳打が叩き出された。
 湿布を貼った頬に少女の小さな、しかし鍛えられた拳がめり込む。
「ぐあっ……!」
 まだ癒えきっていない傷口を再度痛めつけられ、重い鎧と崩れた体勢も手伝い地面に倒れる。
 その隙にリタは捨てた剣を素早く拾い、上半身を起こしかけたリエーレの首元に剣先を突きつけた。
「……勝負あり、ですね」
 アトラと共に現場に駆けつけたレギオニウスが呟き、リタの勝利を認める。
 しかしアトラは、到底今の戦い方を容認することができなかった。
「卑怯よ、リタ!」
「そうよ! 怪我をしている所を殴るなんて汚いじゃない!」
「対戦中に剣を自分から捨てるなんて、騎士の名折れだわ!」
 部下達も同じ気持ちらしく、口々に勝者を非難する。
 大人しいリタはその言葉を聞き……さらに口端を歪めた。
「卑怯? 汚い? そんな綺麗事を言う資格がありますか?」
「なっ……!」
「覚えていますか? 先日の盗賊たち。たった四人に対し、私たち騎士団は大人数で取り囲み、不意打ちで弓を放ち一人を射殺したあれは、どう考えても卑怯な戦法です!」
 先輩騎士たちの罵声をものともせず、大手をふるって演説を始めたリタに誰もが言葉を失う。
 うろんな目つきで睨む者。
 あれは正義の行いだと反論する声。
 中にはリタの言葉に一理ありと見て動揺する騎士までいた。
「戦いで大事なのは、勝ち方じゃありません。相手を倒すことです! そのためならどんな手段であろうと……」
「言いたいことはそれだけ?」
 言葉を遮るように、アトラがリタの眼前に進み出る。
 これ以上好き勝手に喋らせては、全体の士気にもかかわると判断したからだ。
 上官である姫騎士の登場に気勢が削がれたのか、リタはバツの悪そうな顔をして愛想笑いを浮かべた。
「お姫……アトラ、様。いらしてたんですか」
「ついさっきね……あなた、ウィーグルに何か吹き込まれた?」
 リタは騎士団に入って日は浅いが、やや臆病で、しかし心優しく真面目な少女であったと記憶している。
 ところが目の前にいる少女は、姿は同じなのにまったく違う印象だった。
「別に、何も」
(……こんなヘラヘラした娘だったかしら)
 アトラに思い当たる節があるとすれば、盗賊団のリーダー・ウィーグルの世話を任せたことぐらいだ。
 優しいリタにほだされてアジトの場所を喋る事を期待していたが、逆に彼女の方が言いくるめられ感化されたのかもしれない。
「いい? 私たちはただの武装集団じゃなくて、騎士なの。戦う力を持たない人々を守る盾であり、平和を脅かす悪を討つための剣よ。その事を忘れないで」
「…………そうですね。申し訳ありませんでした」
 少女の緩んだ顔つきが徐々になりを潜め、頭を下げる。
 前髪の隙間からのぞくリタの表情は、アトラも見知った心細そうな表情だった。
 部下の不安げな顔で安心すると言うのも変な話だが、アトラはそれ以上リタを叱る気もなくなり代わりに笑顔を見せる。
「わかってくれたならいいの。さっ、みんなも訓練を続けて」
「はいっ!」
 快活な少女達の返事を聞きながら、アトラは登場したときと同様、颯爽とした足取りで少女騎士たちの輪から外れていった。
 途中、一度だけ振り返ると、差し伸ばしたリタの手を握り返すリエーレを見てようやく肩から力が抜ける。
「レギオニウス。ウィーグルのことだけど」
「はっ」
「何もしないでいいわ。アジトは山間警備隊が発見してくれるのを待ちましょう」
 戦う力を持たない人間を痛めつけるなど、騎士のする事ではない。
 はからずもそれを再認識させられ、アトラはこれまで以上に自らの役割を強く意識した。
「……姫様のお心のままに」
 レギオニウスは感情を抑えた声で、第一王女の決断を粛々と受け入れる。
 自分の甘さを自覚しているアトラは、黒騎士の従順な返事に苦笑いをこぼした。



*:ウィーグル(リタ)

 一日の訓練を終え、少女騎士たちはそれぞれの帰路につく。
 城内にある兵舎で生活する者もいれば、城外で家族と共に過ごす者もいる。リタは後者であり、誰はばかることなく城門の外へと抜け出した。
 その中身が獄中にいる盗賊の男であるなどとは毛の先ほども疑わず、門番の男が敬礼をする。
「お疲れ様でした!」
「ん? おう、またな」
 無関係な男の前までリタとして振舞うつもりはなく、ウィーグル本来の口調でがさつに応じる。
 門番はきょとんとした顔で見送っていたが、気にせず城から離れた。

 街を歩けば、民衆の少女騎士に対する憧憬の眼差しがチラチラと注がれているのがわかる。
 日陰者として生きてきたウィーグルにとっては不慣れな、しかし心地の良い視線に気分が高揚した。
 リタが築き上げた信頼。リタの誇り高き地位。
 肉体や記憶、身体能力のみならず、そうした立場まで、いまや自分のものとして手に入れた。これで快くならないはずがない。
 懸念があるとすれば、本物のリタが何をしでかすか、だ。
 自分が記憶を読める以上、ウィーグルの記憶をリタが読めない道理はない。隠れ家の場所を『思い出され』でもしたら、間違いなくアトラに報告するだろう。
(あの優しいお姫様のことだ、恩赦だとか言って牢から出すかもしれねぇ……)
 自由になったリタが魔道具の事を伝え、万が一にも信じる人間が現れでもすれば、アトラに復讐するどころの話ではなくなってしまう。
 入れ替わった直後はそんなことに頭が回らなかったが、今のウィーグルは自分の置かれている状況を冷静に分析する事が出来た。
「くひひ……すげぇな。これも魔道具の力ってヤツか」
 リタの知識や思考までも引き出せる事を知り、ウィーグルは自分の指に嵌めた銀の指輪を夕日にかざした。
 シンパシーリング。
 装着者に同情した人間と身体を入れ替える、旧文明の遺物。
「こんな物、マホウ文明時代の連中は何に使っていたんだか。……にしても」
 細い指。歩くたびに揺れる胸。そしてスカート。
 男であったウィーグルには縁のなかったそれらの感触が、急激に実感を伴って襲い掛かる。
 リタの記憶があるとはいえ、とても新鮮な感覚だった。
「……くひひ、早く家に帰って楽しみたいな」
 服の上から胸の形をなぞるように撫でる。
 本物のリタが何をしようと、どのみち元に戻る手段はないのだ。
 新しいカラダの具合を確かめながら、ゆっくり対策を考えれば良い。
 『リタ』は足取りも軽く、ニヤニヤと男性的な情欲の笑みを浮かべながら自分の家へと向かった。








ディバイダー的なオチにはならないのでご安心を
スポンサーサイト
[PR]

コメントの投稿

非公開コメント

No title

悪逆非道の限りを尽くしてきた盗賊ですら、自ら怪しまれる言動を取らない限り正体に気付かれないほど、清廉な少女騎士の口調から仕草から記憶含めた肉体のすべてを奪ってしまえるとは、なんと羨ま――恐ろしいものなんでしょうね魔道具とは!
元男の極悪人がなんら不自由なく少女騎士の生活を送れるとは……はぁはぁ……期待、いや心配の種が尽きなくて妄想が膨らみますな!

次の更新はだいぶ先になりそうなので、それまでなんとか妄想で食いつなごうと思います。

コメントありがとうございます

>nekome さん
感想ありがとうございます!
人間には到底不可能な所業、これぞマホウ!です

なるべく早いうちに続きを載せられればと思います