ヤ サ シ イ セ カ イ 8
こ、広告が…
なので、いつもよりだいぶ短いですがストックしてあった分を載せます
ファンタジーなダーク系のお話です
少女騎士と入れ替わった盗賊視点で進行します
ヤ サ シ イ セ カ イ ~シンパシーリング 3
近衛騎士団に所属する少女のほとんどは上流階級の生まれだ。
騎士の称号はそれ自体が誇りであり、よほど秀でた人物でもない限り市井からはまず採用されない。
幸か不幸か、リタは貴族の生まれだった。
とはいえ両親は一年前に他界し、跡取りの兄は病に伏せっている。リタの家が没落寸前であることは明らかで、それゆえに彼女は、高い名誉と給与の期待される騎士団に入隊した。
まさか家を失う前に自らのカラダを奪われるなど、想像もしなかっただろうが。
「ここか」
非業の運命を背負う少女騎士に成り代わったウィーグルは、上流階級者の館がつらなる「貴族街」と呼ばれる大通りの一軒で足を止めた。
夕焼けに染まったレンガ造りの建築がまぶしくて目を細める。これまで隙間風の吹きすさぶ小屋や薄暗い洞窟でしか暮らしていなかったウィーグルには、その佇まいは絢爛にして豪華そのものだった。
扉に取り付けられた真鍮のノッカーをむしり取って売り払いたい盗賊のサガを押さえ込み、木のきしむ音を立てて屋敷に踏み入れる。
上品に整頓された廊下と清潔な香りが出迎えた。
従者も全て解雇し、現在はこの広い屋敷に兄とリタの二人しか住んでいない。
自分の足音だけが響く静かな廊下をしばらく進んでいると、通りがかったドアの向こう側から声をかけられた。
「リタ? 帰ったのか?」
戸が開き、室内着の若い男が部屋から出てくる。
(……リタの兄貴か)
記憶にある病弱な『兄様』に、どういった振舞いをすべきかウィーグルは少し悩む。しかしリタの頭脳は元の自分よりよほど優れているのか、すぐに妙案が浮かんだ。
「身体の具合はどうですか、兄様」
「あぁ、今日はだいぶいいよ。お前の方こそ、ずいぶん機嫌が良いみたいじゃないか?」
「ふふっ、そうですねぇ……まるで生まれ変わった気分です」
「へぇ、それは良かった。何があったんだい?」
リタの兄……カイトは、妹が別人と入れ替わっているなどと知らず、朗らかに笑いかけている。
「くひひ……まずは乾杯をしませんか兄様? 私の新しい人生に、ね」
「新しい人生……? リタ、さっきから何を……」
さすがに違和感を抱いたのか、カイトの顔つきに怪訝なものが宿る。
ウィーグルはそうした一切の疑念を無視して、上機嫌なまま食堂に入った。
貯蔵庫から持ち出した葡萄酒を、瓶のまま口につけて飲む。
これまで一度だって飲酒をしたことのないリタの肉体は、すぐに酔いが回った。
「り、リタ、お前……」
「くひひ……なんて顔しているんですか兄様ぁ。ほら、乾杯しましょうよ」
呆然とする兄にも酒瓶を握らせ、ビン同士をぶつけ合わせる。
食卓には干し肉ばかりが並べられ、リタはそれらを食器も使わずに素手で次々と食べていった。
下品きわまる妹の振る舞いに、カイトは言葉を失っている。
「リタ……どうしたんだ、いったい……何があったんだ」
それでもまだ、目の前の少女が自分の妹であると信じて疑わないでいるカイトの様子に、ついに我慢の限界を迎えた。
「ぶっ、くひひひひひ! ここまでして、まだ気付かないのかよっ! ひゃははは!」
一見ただの酒乱にも思える笑い声を上げて、再びビンに口をつける。
口端からこぼれた葡萄酒を拭いもせず、ウィーグルは爽快な気分で種明かしを始めた。
「俺は、お前の妹なんかじゃねぇよ。ウィーグルっていう盗賊の頭だ」
「な、何を……」
「昨夜、お話しましたよね? アトラ様と一緒に、盗賊を捕らえたって。……その盗賊が俺だ」
「そ、そんなバカな。どう見てもお前は……」
「魔道具って知っているよな? そいつを使って交換させてもらったんだ。俺とリタの身体をな」
理解が追いつかないのか、あるいは理解しているからこその動揺か、カイトは何度も何度も同じ言葉を吐き、リタの顔とテーブルの木目を行き来していた。
「そんな……そんな……ことが……!」
「くひひひっ、いい顔するねぇ兄様? 妹の体を奪った男と一緒にする食事はどうだぁ?」
「俺は……俺は……あぁ、は、あ、はぁ……!」
「あん?」
カイトの息遣いが徐々に荒くなり、胸元を握り締める。
異様なほどの量の汗を噴き出し、小刻みに身体を振るわせ始めた。
「は、あっ……ぐぅ……!」
苦悶の表情を浮かべ、そのまま前のめりになってテーブルに倒れる。
どうやらショックを与えすぎて発作を起こしたらしい。
「おいおい、死んじまったか?」
髪をつかんで顔を覗き込むと、男は白目を剥いて気を失っていた。
「けっ、温室育ちが」
手を離すと、人形のように顔をテーブルにうつぶせる。
しばらくは正気を取り戻しそうになかった。
「ここからが本題だってのに……。ま、明日にしてやるか」
兄への興味を失ったウィーグルは酒瓶や干し肉をそのまま放置し、食堂を後にした。
「さて、まずは風呂にするか。……ちゃんと綺麗にしてやるぜ、隅々までなぁ。くひひっ」
ボタンを緩めながら浴室に向かうリタの表情は、女体への期待を隠そうともしないだらしない笑みが浮かんでいた。
風呂場のシーンは割愛不可避ですかそうですか
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なので、いつもよりだいぶ短いですがストックしてあった分を載せます
ファンタジーなダーク系のお話です
少女騎士と入れ替わった盗賊視点で進行します
ヤ サ シ イ セ カ イ ~シンパシーリング 3
近衛騎士団に所属する少女のほとんどは上流階級の生まれだ。
騎士の称号はそれ自体が誇りであり、よほど秀でた人物でもない限り市井からはまず採用されない。
幸か不幸か、リタは貴族の生まれだった。
とはいえ両親は一年前に他界し、跡取りの兄は病に伏せっている。リタの家が没落寸前であることは明らかで、それゆえに彼女は、高い名誉と給与の期待される騎士団に入隊した。
まさか家を失う前に自らのカラダを奪われるなど、想像もしなかっただろうが。
「ここか」
非業の運命を背負う少女騎士に成り代わったウィーグルは、上流階級者の館がつらなる「貴族街」と呼ばれる大通りの一軒で足を止めた。
夕焼けに染まったレンガ造りの建築がまぶしくて目を細める。これまで隙間風の吹きすさぶ小屋や薄暗い洞窟でしか暮らしていなかったウィーグルには、その佇まいは絢爛にして豪華そのものだった。
扉に取り付けられた真鍮のノッカーをむしり取って売り払いたい盗賊のサガを押さえ込み、木のきしむ音を立てて屋敷に踏み入れる。
上品に整頓された廊下と清潔な香りが出迎えた。
従者も全て解雇し、現在はこの広い屋敷に兄とリタの二人しか住んでいない。
自分の足音だけが響く静かな廊下をしばらく進んでいると、通りがかったドアの向こう側から声をかけられた。
「リタ? 帰ったのか?」
戸が開き、室内着の若い男が部屋から出てくる。
(……リタの兄貴か)
記憶にある病弱な『兄様』に、どういった振舞いをすべきかウィーグルは少し悩む。しかしリタの頭脳は元の自分よりよほど優れているのか、すぐに妙案が浮かんだ。
「身体の具合はどうですか、兄様」
「あぁ、今日はだいぶいいよ。お前の方こそ、ずいぶん機嫌が良いみたいじゃないか?」
「ふふっ、そうですねぇ……まるで生まれ変わった気分です」
「へぇ、それは良かった。何があったんだい?」
リタの兄……カイトは、妹が別人と入れ替わっているなどと知らず、朗らかに笑いかけている。
「くひひ……まずは乾杯をしませんか兄様? 私の新しい人生に、ね」
「新しい人生……? リタ、さっきから何を……」
さすがに違和感を抱いたのか、カイトの顔つきに怪訝なものが宿る。
ウィーグルはそうした一切の疑念を無視して、上機嫌なまま食堂に入った。
貯蔵庫から持ち出した葡萄酒を、瓶のまま口につけて飲む。
これまで一度だって飲酒をしたことのないリタの肉体は、すぐに酔いが回った。
「り、リタ、お前……」
「くひひ……なんて顔しているんですか兄様ぁ。ほら、乾杯しましょうよ」
呆然とする兄にも酒瓶を握らせ、ビン同士をぶつけ合わせる。
食卓には干し肉ばかりが並べられ、リタはそれらを食器も使わずに素手で次々と食べていった。
下品きわまる妹の振る舞いに、カイトは言葉を失っている。
「リタ……どうしたんだ、いったい……何があったんだ」
それでもまだ、目の前の少女が自分の妹であると信じて疑わないでいるカイトの様子に、ついに我慢の限界を迎えた。
「ぶっ、くひひひひひ! ここまでして、まだ気付かないのかよっ! ひゃははは!」
一見ただの酒乱にも思える笑い声を上げて、再びビンに口をつける。
口端からこぼれた葡萄酒を拭いもせず、ウィーグルは爽快な気分で種明かしを始めた。
「俺は、お前の妹なんかじゃねぇよ。ウィーグルっていう盗賊の頭だ」
「な、何を……」
「昨夜、お話しましたよね? アトラ様と一緒に、盗賊を捕らえたって。……その盗賊が俺だ」
「そ、そんなバカな。どう見てもお前は……」
「魔道具って知っているよな? そいつを使って交換させてもらったんだ。俺とリタの身体をな」
理解が追いつかないのか、あるいは理解しているからこその動揺か、カイトは何度も何度も同じ言葉を吐き、リタの顔とテーブルの木目を行き来していた。
「そんな……そんな……ことが……!」
「くひひひっ、いい顔するねぇ兄様? 妹の体を奪った男と一緒にする食事はどうだぁ?」
「俺は……俺は……あぁ、は、あ、はぁ……!」
「あん?」
カイトの息遣いが徐々に荒くなり、胸元を握り締める。
異様なほどの量の汗を噴き出し、小刻みに身体を振るわせ始めた。
「は、あっ……ぐぅ……!」
苦悶の表情を浮かべ、そのまま前のめりになってテーブルに倒れる。
どうやらショックを与えすぎて発作を起こしたらしい。
「おいおい、死んじまったか?」
髪をつかんで顔を覗き込むと、男は白目を剥いて気を失っていた。
「けっ、温室育ちが」
手を離すと、人形のように顔をテーブルにうつぶせる。
しばらくは正気を取り戻しそうになかった。
「ここからが本題だってのに……。ま、明日にしてやるか」
兄への興味を失ったウィーグルは酒瓶や干し肉をそのまま放置し、食堂を後にした。
「さて、まずは風呂にするか。……ちゃんと綺麗にしてやるぜ、隅々までなぁ。くひひっ」
ボタンを緩めながら浴室に向かうリタの表情は、女体への期待を隠そうともしないだらしない笑みが浮かんでいた。
風呂場のシーンは割愛不可避ですかそうですか

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