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ヤ サ シ イ セ カ イ 10


ファンタジーなダークTS系のお話です

シスターに変身した少年エルフと女盗賊のお話です

 ヤ サ シ イ セ カ イ ~ミミックジェム 2



*:ジズ(アービィ)

「そのとき神は……えぇっと、「見た目に惑わされてはいけません。あなたの愛する隣人の心は、すでに悪魔に奪われているのです」といって……その者を、神の国から追放しました」
 聖堂にこだまするシスター・ジズの声は普段と違いどこか気弱で、とても聞き取りづらかった。
 慈愛に満ちた笑みを浮かべるでもなく、何かに恥じ入るように顔を赤くし、時折もぞもぞと身じろぎをして妙に落ち着きが無い。
 それもそのはず。これまでの人生で『彼』は他人から蔑まれこそすれ、尊敬の眼差しを向けられることなど一度もなかった。
 修道服を身にまとうのも初めてならば、純白の衣の下に女性のカラダがあり、それを自分の思い通りに動かす経験も初めてだ。
 アービィは男性であり、少年であり、世界中から差別されるエフルだ。
 しかし今、魔道具【ミミックジェム】のマホウにより、彼の姿は皆から慕われる大人の女性……シスター・ジズその人に変身している。
 元の姿より高い目線も、紡ぎ出す声も、立場も種族も何もかもが以前と様変わりしていた。
(どうしてこんなことに……)
 チラリと、聖堂の一角にある閉ざされた扉を見やる。昨晩外したカンヌキは元通り施錠され、外からでは忍び込んだ形跡など全くわからない。
 だがあの部屋には、今も二人の人間が身を潜めている。もっとも、一人は監禁されているといった方が正しいだろう。
 服を剥ぎ取られ、下着姿のまま荒縄で縛りつけられた『彼女』の姿を思うと、アービィはいたたまれないような気持ちになり、それでいてムラムラとした情念が湧き上がる。
 今の自分があのカラダと同じものだと思うと、そして彼女が身につけていた服を今まさに着ているのかと思うと、どうしてもそわそわしてしまった。
「どうしたの、シスター?」
「具合、悪いの?」
 子供達は明らかに様子のおかしい『ジズ』を気遣い、心優しい言葉を掛けてくる。
 だが、それを素直に受け止めることは出来なかった。
 彼らの口からは、アービィの名前がまるで挙がらない。昨日の夜からずっと行方知れずだというのに、孤児院の仲間達は誰一人として彼のことを心配していなかった。
 同じエルフからすらも気にかけて貰うことの叶わない現実に、アービィはどんどん悲しくなる。
 先ほどまで頬を薄紅に染まっていた初々しい照れ顔がみるみる曇り、涙がじわりとにじみ出てきた。
 そのときだ。
「おっはよー、みんな!」
 勝手知った勢いで礼拝堂の扉を大きく鳴らし、貴族の令嬢が笑顔で押し入ってくる。
 デザインこそ違うが、トリーシェは今日も深紅のドレスを身にまとい、美しく輝く金髪を双房に分けていた。
「ごきげんよう、シスター・ジズ。ミサの時間は終わりまして?」
 『ジズ』の正面まで来ると、スカートの端をつまみ軽い会釈をする。
 優雅な振る舞いは、彼女の裏の顔を知っていても思わず見惚れてしまいそうなほど美しかった。
「子供たちをお借りしても?」
「お……お願い、します」
「よぉし、みんな。外で遊びましょう! ……って、あら?」
 トリーシェがふと声を潜め、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回しはじめる。
「ねぇ、アービィはどうしたの?」
「!」
 思いもしなかった相手からその名を出され、『ジズ』はあからさまに動揺を見せた。そうした反応にトリーシェが気づくより先に、孤児の一人がいかにも面倒くさそうに答える。
「えー、シラネ。逃げたんじゃねぇの?」
「……逃げた? 孤児院から? 何でそんなことを!」
 心無い孤児の少年の言葉に、過剰とも思える勢いでトリーシェが目を剥いた。
 朗らかな顔は一転して怒気を含ませたものに変わり、忌々しげに爪を噛む。
「身寄りのないエルフが、ここを出てどこに行こうっていうの? わたしの……教会の庇護なくして、あなた達が生られる場所があると思って!?」
 憤怒に満ちた声音は言外にエルフを見下しているようでもあり、心底からアービィを心配している風にも聞こえた。
 どちらが真実なのかそれを知るのは本人のみであり、だがそれ以前にアービィは自分の不在を気にかけてくれた彼女に対し、感謝にも近い念を抱く。
 先日、彼女はエルフの事が嫌いではないと言った。
 トリーシェからは散々いじめられてきたこともあり不用意にその言葉を鵜呑みにすることは出来ないが、こんな素振りをされてしまうとそれも揺らいでしまう。
 トリーシェのことを信じたい。アービィは自分が目の前にいることを伝えて安心させてあげたいと思い、一歩前に踏み出した。
「おぉい、ジズや。ちょっとこっちに来てくれ」
 聖堂の奥にある、書斎へと繋がる扉の向こうからクリフ神父の声がする。
 ヒゲを蓄えた恰幅の良い姿を思い浮かべ、ジズに何の用だろうと首を捻った。
「ジズ? 神父様が呼んでいるわよ?」
「え? あ……」
 言われて、いまの自分が『ジズ』がだったことを思い出す。
 この姿のままアービィだと名乗ったところで、一体誰が信じてくれるというのか。
「アービィはわたしが探しておくから、いってらっしゃい。みんなも協力してね!」
「えぇー?」
 やる気充分な令嬢とは対照的に、孤児達からは不満の声が上がる。
 同じ種族の子供より、よっぽどトリーシェの方が親切だ。
「……っ、お願い、します」
 アービィは唇を噛み、絞り出すような声で言うと神父の元へと向かった。



 書斎では初老も半ば過ぎたクリフ神父が、卓上にヒジを付いてニコニコとしていた。
「おはよう、ジズ。今日も無事に朝を迎えられたことを神に感謝しよう」
「は、はぁ」
 無事なわけがない。
 教会には盗賊が侵入し、今も物置に潜んでいる。シスター・ジズは服を奪われ拘束されている。そして自分はジズに成り代わって神父と話をしている。
 たった一晩で彼の身の回りはがらりと変わってしまったのに、本人はそれを知らず決まりごとのように神への感謝を唱えた。
「ところで、今日はどうしたというのだ? らしくもなく手間取っていたようだが」
 クリフ神父は笑みを湛えたまま、壁に掛かっている時計を見上げた。
 本物のジズならば、朝のミサなどとっくに終わらせている時間だ。しかし姿は同じでも知識のないアービィでは聖典を紐解きながらの見様見真似しかできず、予定の半分もこなせなかった。
「あ、あの、それは……」
「うん? 聞こえんなぁ。もっと近くに来なさい」
「はい……」
 叱られる子供のような心境で、言われるまま神父の元に近づく。
 机を迂回し、彼の傍らまで来た瞬間、彼の手が『ジズ』の胸に差し伸ばされた。
「ひゃっ……!?」
 男の頃にはなかった胸の隆起を揉まれる、という初めての感覚にアービィは甲高い声を上げて後退する。
「どうした? なぜ逃げる」
「ああああ、あの、い、いま、いま、むね……!」
「今更なにを戸惑っている。もしや、私に逆らうつもりか?」
 クリフ神父は柔和な顔つきを変えることなく、ゆっくりと立ち上がった。
 声色も優しいまま、糸のように細い目が『ジズ』をじっと見つめている。
「エルフが教会に出入りし、孤児院で暮らしていけるのは誰のおかげか、忘れたか?」
「そ、それは、トリーシェが……」
「マーグレイ家の援助があろうとも、この教会を預かる私の許可なくしてはエルフの保護など出来んよ。大司教様からご不況を買うのは心苦しいが、しかしお前の美しいカラダにはそれだけの価値がある」
「……!?」
 神父の台詞に、アービィは更に後退し自身を庇うように抱きしめた。
 実際は言葉の意味など半分しかわかっていない。しかし笑顔の神父から漂う粘ついた空気は、身の危険を感じさせるには充分すぎるほどだった。
(ジズは、エルフの事が嫌いじゃ……なかったの?)
 唯一自分のことを気にかけてくれたトリーシェは言っていた。ジズはエルフが嫌いで、しかし教会のために我慢しているのだと。
 だが神父の話はまるで逆ではないか。
「ジズよ、お前は頭の良い娘だ。私も、マーグレイも、そしてエルフ共すら幸せにしてやるためにはどうすれば良いのか、言わずともわかるだろう?」
 クリフ神父は『ジズ』の華奢な肩に手を置き、囁くように言って部屋を出た。
「なにが、本当なんだよぉ……」
 ジズは教会のために、エルフに優しくしているのか。エルフのために、神父に身体を差し出しているのか。
 どちらも自己犠牲の精神でありながら、意味合いは大きく異なる。
 誰が正しいのか。誰が嘘をついているのか。
 書斎に一人残されたアービィは、へなへなと力なくその場に座り込んでしまった。

*:ディーザ

 正しさなんてものは見方によっていくらでも変わる。
 結局、最終的に判断するのは自分だ。
 正義だの悪だのを一方的に決め付けて他人に強制することこそ害悪ではないかと、女盗賊ディーザはそう考える。
「そう思わないか? なぁ、聖女様よぉ」
 積み上げた木箱の上から持論を振りかざし、唯一の話し相手である下着姿の女に視線を送る。女は怯えた目を向けるだけで返事はしなかった。
 もっとも、仮に何か言ったところで猿ぐつわを噛まされている彼女はまともに喋ることもできないのだから、ディーザも返事を期待して話をかけたわけではない。
 したいのは討論ではなく、一方的な批判だ。
 偽善にまみれた教会の人間を捕らえ、罵ることのできる機会などそうそうないだろう。
「ジズっていったか? なぁ、どんな気持ちだよ。お前が悪魔って呼んだ奴が、お前の服を着てお前の声でお前の仕事をしているんだぞ? 感想を教えてくれよ」
 『ジズ』に化けた悪魔の正体を、ジズはまだ知らない。魔道具だと思われる首飾りの特性を理解するまで、余計な情報は与えるべきではないという判断だった。
「『神は全てを見通し、悪事は必ず暴かれる』だったか? けど、どうだ。信者も神父も、誰もアイツが偽者だって気付かねぇじゃんか! おっかしいよなぁ?」
「……」
「どうしてなのか、薄汚いエルフのアタシが教えてやりましょうか? シスター・ジズ」
 哄笑を蓄えた目線のまま不慣れな丁寧語を使い、女のアゴを乱暴につかむ。
 不安げに揺れるエメラルドグリーンの瞳を正面から見据え、ディーザは先ほどまでとはうって変わった強い口調で言い放った。
「神なんざ、この世にいねぇからだよ」
 ジズはあくまでも怯えた目で女盗賊を見つめるだけだった。



 教会の一日はほとんどが祈りや奉仕の時間にあてられている。
 礼拝堂は常に人が出入りし、人目に付かず物置から出るのはさすがの盗賊ディーザでも難しかった。
 そもそも侵入を悟らせないために、元少年にはカンヌキを元通り掛けておくように指示してある。どの道、自力での脱出は不可能であり、立場的にはジズとそれほど違いはなかった。
 少年に裏切られ、餓死する可能性はゼロではない。自分の命があんな頼りない男に握られているのかと思うと、ぞっとする。
(……ま、そんときはそんときだ)
 自殺願望は無いが、背中を任せた人間に後ろから刺されるぐらいの覚悟なら常にあった。
 ディーザは「同族だから」という理由で相手を信じるほど、お人よしではない。
 エルフのために世界を変える、などという聞こえの良いお題目を唱えたのも、少年を利用するための言葉でしかなかった。
「おい、腹が減ったぞシスター。神のご加護でこのくそつまらねぇ書類をパンに変えてくれよ」
「……」
 女盗賊に高尚な目的など存在せず、教会の人間にイヤガラセ出来ればそれで満足なのだ。
 定期的に揶揄を口にするディーザに比べ、沈黙を貫くジズは明らかに憔悴している。こんな不衛生な場所でほぼ一日縛られているのだから、それも無理からぬことではあった。
 ────ガコッ。
 扉の向こうから何かを外す音が聞こえ、続いて木戸のきしむ音がおそるおそる鳴る。
 薄暗い小部屋に明かりが差し込み、久しぶりによどんだ空気が動くのを感じた。
「あ、あの……」
 開いた扉の隙間から遠慮がちに入って来たのは、純白の修道服を着た元少年だった。
 ようやく人気が無くなり、自由時間を得られたらしい。
「よぅ、待ちくたびれたぞ」
「ご、ごめんなさい」
 慌しく部屋に入り、チラッとだけ本物のジズを見やる。
 それも一瞬のことで、気まずそうな顔をするとすぐに目を逸らした。
「い、言われた物、持って来ました」
「ああ」
 元少年が手提げ袋を差し出し、それを受け取る。
 パンと水。それに、ジズの部屋から持ち運ばせた彼女の私服が入っていた。
 要望どおり下着も一式取り揃えており、きちんとお使いを成し遂げた飼い犬をほめてやりたいような気分になる。
(とりあえず、誰にも言ってないみたいだな)
 自分の目の届かないところで、元少年が事情を打ち明けてしまわないかという懸念はあった。だが小部屋に入って来たのは彼だけで、武器を携えた騎士団や厳しい顔をした神父が後に続く様子は無い。
「誰にも、ここに入るところを見られていないな?」
「は、はい」
「よし」
 ディーザは食料の入った皮袋と衣類を抱え、座っていた木箱の上から飛び降りた。
「お、お姉さん?」
「出かけてくる。ソイツを見張ってろ」
 床のジズを指差し、戸惑う少年を尻目に部屋から出て行く。
 が、何かを思い出したようにきびすを返し、ディーザは修道女の姿になった少年の肩に手を回すと耳打ちをした。
「わかっているな? 誰にも言うなよ?」
 正体は明かすな。魔道具のことも秘密だ。
 既に言い付けてあることだが、狭い空間に二人きりともなれば口が滑りやすくなるのはままあることだ。
 しかし慕わしく思う女の前で、アービィがどれだけ『悪魔』を演じられるか確かめておきたかった。
「夜には戻る。余計な奴は入れんなよ」
 そう言い、今度こそディーザは部屋を出て行った。



 教会の外は、すっかり夕暮れに染まっていた。
 久しぶりの外の空気を思い切り吸い込み、ディーザは大きく伸びをする。
 彼女が着ているのは白のラインが入った、淡いスミレ色をしたワンピースだ。露出を好むディーザの趣味ではないが、ベッドシーツを身体に巻きつけただけの衣装よりずっとマシなのだろう。市場を歩く化粧気の無い顔は上機嫌そのものだった。
(さて、と。これからどうするか)
 しばらくはアービィを使って、教会にイヤガラセを続けるつもりだ。
 しかしあの物置を寝床とするには、いかんせんリスクが高い。騎士団に喧嘩を売ったこともあり、なるべくなら人目に付きたくなかった。
 となると新しい隠れ家が必要だ。そこが教会から近いのなら、なおさら良い。
「おっと」
 考え事をしていると、向かい側から走ってきた少女とぶつかりかける。
 すんでのところでヒラリとかわしたが、少女はディーザに一瞥すらくれず走り去っていった。
「……なんだぁ? アイツ」
 失礼な女だ、と憤然とした顔でその背中を見送る。だが慣れ馴染んだある臭いが鼻先をかすめ、訝しげなものに変わった。
(……血の臭い?)
 すれ違った少女には不釣合いなその残り香を嗅ぎながら、しかしディーザは一瞬で思考を切り替える。
「アタシも獲物、調達しなきゃな」
 自分が丸腰だったことを思い出し、女盗賊は鍛冶屋を探すため再び歩き出した。
 少女のことなど、すっかり頭から消え失せていた。

*:ジズ(アービィ)

 女盗賊の命令でジズを捕らえてはいるが、もちろん殺すつもりなどアービィにはない。
「食べなよ。お腹、すいているでしょ?」
 ジズの猿ぐつわをほどき、ちぎったパンを差し出す。
 しかし彼女は唇を固く結んだまま、口をつけようとしなかった。
「……悪魔からの施しは、受けません」
 自分の声としてではなく、久しぶりに聞いた本物のジズの声は、記憶にあるものよりずっと刺々しい。
 一方的に悪魔扱いすることといい、アービィはシスターに対する落胆を隠し切れなかった。
「『悪行はいずれ暴かれ、裁きを受ける』。聖典にもそう記されています。これ以上、神を冒涜するのはやめなさい」
「…………そうだね、その通りだ」
 アービィは差し出したパンを引っ込め、正面から聖女の顔を見つめる。
 幼さを残しつつ艶やかさも兼ね備えた顔には不慣れな険相が刻まれ、敵愾心を剥き出しにしていた。
 そんな表情をされて、快い気分になるはずもない。普段の優しいジズを知るだけに、理不尽な怒りすら覚える。
「クリフ神父とナニしているの?」
「え……」
「おっぱい、揉まれたんだけど。ほら」
 見せ付けるように胸部を寄せてあげる。
 不可侵としてきた『ジズの胸』を初めて触った感想は、なんとも言えない興奮を呼んだ。
 心構えもなしに神父から揉まれた時とは、感覚が全然違う。
「ん……や、やわらかいね……クリフ神父も、もっと優しく触ってくれれば良かったのに」
「な、何を……やめなさい! そんな、はしたない!」
 ジズは声を震わせて、悲鳴にも近い叫びを上げた。
 彼女からしてみれば、目の前で自分が自分の乳房を撫で回しているのだ。鏡を使うでもなく、自らの意思を介することさえなく淫らな仕草を行う動く『ジズ』を目の前にして、平静が保てるはずも無いだろう。
「僕らの目を盗んで、いつも神父とイヤラシイことしているんでしょ? 聖典にはなんて記されているっけ。『悪行はいずれ暴かれる』? 本当に、その通りだよ」
 そして今まさに、ジズは裁きを受けている。拘束されて、自分の姿をいいように使われている。
「それなら、神父にも裁きを与えないとね」
「か……神の代行者になるつもりですか。この悪魔め!」
 金切り声を上げるジズにアービィは悲しそうな微笑を返し、すっと彼女から離れた。
「パンや水は置いておくから、無理せず食べなよ。それじゃ」
「ど、どこに行くつもりですか」
「シスターがいつまでも物置に引きこもっていたら、変でしょ?」
「……!」
 アービィは無意識だったが、その台詞はジズの柔らかい部分を深く傷付けることになった。
 修道服を着ていないジズは、シスターではない。言外にそう匂わされたような気がして、唇をきつく噛む。
「うん……?」
 ふいに、礼拝堂から乱暴に扉を開け放つ音がする。
 トリーシェがやってきたのだろうか。
「何の用だろう……じゃあ、大人しくしててね。……叫んだりしたら、ここに閉じ込められる人がまた増えるだけだから」
 不思議なことに、アービィはそんな台詞を簡単に言ってのけた。
 女盗賊の影響か、それともこれが彼の本当の顔なのか。ジズはもとより本人すらも、それは定かではなかった。



(誰もいない……?)
 予想していた、貴族の少女の姿はない。
 ずらりと並んだ長椅子に座る人影は無く、天窓から差し込む夕焼けがしんと静まり返った聖堂を寂しげに照らしていた。
「誰か、いませんか」
 ジズの澄んだ声が小さく反響し、たそがれに問いかける。
 その声を聞きつけたのか、長椅子の隙間から小さな影がモゾと動いた。
「あ、あぁ、シスター……どうか、お助けください……!」
 現れたのは、襟元で後ろ髪を切りそろえた小柄な少女だった。全力で走ってきたのか、息は乱れ、いまにも倒れそうなほどふらふらしてる。
「お、落ち着いて。どうしましたか」
 『ジズ』になりきって、彼は憐れな信徒と思わしき少女の傍におそるおそる歩み寄った。
 少女の様子からただ事ではないものを感じ取り、こんなとき本物のシスターならどうするだろうと逡巡する。
 果たして、彼女の口から語られたのは、予想を上回る言葉だった。
「お救い下さい……! わ、私は……私は人を……恋人を、この手にかけました!」
「……え?」
 悲痛そうに叫んだ彼女の濃紺のスカートは、目立たずとも確かに返り血を浴びていた。







第二部終わり

これでキャラは出揃いました
次回以降はエロもそれなりに入れていきます
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非公開コメント

No title

純情・・・だった少年が
だんだんと堕ちていってますね

これが大人になるとい事でしょうか?

他のシナリオとの絡みも発生して
続きが楽しみです

コメントありがとうございます

> The.second さん
純情ってことは、染まりやすいってことですので(ゲス笑顔)

一つの小さな国で巻き起こる群像劇。
お楽しみいただけているのならば僥倖です