ヤ サ シ イ セ カ イ 13
少々思うところがあり、シスター編は飛ばして憑依大臣の話を書きました
ファンタジーなダークTS系のお話です
短いものですがR18要素があるのでご注意ください
ヤ サ シ イ セ カ イ ~ソウルイーター 3
*:ドラウザ
乱暴な足音が、地下書庫の床をドスドスと打ち鳴らしていた。
歩いている人間の心情を表すかのように苛立たしげに響く靴音は、銀髪のエルフが陣取る書き物机の前まで来るとピタリと止んだ。イノシシかと見紛うほどの肥えた男が、鼻息を荒くして彼女を睨みつけている。
それでも女は動じることなく、色違いの瞳で彼を一べつするだけだった。
「食料室を開放しろ」
今や地下書庫の雑用に身をやつす元大臣ドラウザは、長机の奥にある扉へ視線をやり、もう一度エルフの女を見据えると不機嫌な声で命令をした。
「夕食にはまだ早いのではないですか、ドラウザ様?」
不遜な態度にも慣れたものだといわんばかりに、マギカが返事をする。
ドラウザはその場でツバを吐き捨てるような仕草を見せ、無言のまま太い腕を差し出した。
当然、腹が減ったから食料室に入りたいのではない。相手もそれは充分承知しているはずだ。
魔道具【ソウルイーター】がもたらすマホウは素晴らしいの一言に尽きる。
しかし魂の抜けた自分の抜け殻を放置しておくのは非常に好ましくない。下手に誰かに見つかれば、そのまま火葬されかねない状態だ。
ならば魔道具を使う前に、確実に人目に付かない場所を探すしかない。
地下書庫自体が人の出入りの少ない場所だが、さらに完璧を期するならば鍵の掛かる食料室が最適だった。
「仕事はまだ残っているのですが」
「まだワシをコキ使うつもりか?」
先日は自分を陥れたメイドに憑依し、恋人をその手にかけ全ての罪を被せてやった。
だがそれから丸一日が経とうとしているのに、そのあいだ【ソウルイーター】を使う機会には恵まれなかった。それもこれも、目の前の司書が次々に仕事を与えてくるせいだ。
「管理人の仕事というのは、暇そうに見えてなかなか忙しいのです。一日のほとんどが本の整理や修繕に追われます」
「知ったことか。ワシはもうこれ以上ガマンならぬ!」
ドラウザは、目が覚めてからナクア姫のことばかり考えていた。
あの愛らしい第二王女に乗り移り、可憐な肉体を好きに弄ぶ妄想がいよいよ実現するのだ。むしろ夕刻の差し迫ろうとするこの時間までなぜ我慢をしていたのか心底不思議だった。
「甘く見るなよ、エルフめが。貴様が生きながらえていられるのは、ワシの気まぐれに過ぎんのだということを忘れるな」
「もちろんです。魔道具を持つあなた様を、どうして軽んじる事が出来ましょう」
マギカの言葉はどこまでも平坦で、台詞通りの感情が伴っているとはどうしても思えない。慇懃無礼、とはこういうことをいうのだろう。
だが彼女の懐から真鍮の鍵が取り出された瞬間、ドラウザの不快感は一掃された。
「どうぞ。存分にお楽しみください」
「ふんっ……最初から素直に渡せばよいものを」
ひったくるようにして鍵を奪い取ると、ドラウザははやる気持ちを抑えきれず急ぎ足で食料室に向かうのだった。
*:クレア
ナクア姫はシュバルツェン王国の第二王女であり、勇ましき姫騎士アトラの妹だ。
国王ジュバールに息子はおらず、王位はアトラか、アトラの夫へと受け継がれることになるだろう。不幸でも起こらない限り、ナクアがこの国を統治する未来は訪れない。
しかし、幼き第二王女はその年頃に見合わず勉強家で、ましてや無知ではありえなかった。
この国の成り立ちから今に至るまでの歴史を学び、社交のための舞踊を覚え、流通や防衛についての見識を得ようと常に努力を欠かさずにいる。
諸外国には自堕落な生活をする王子王女が多い中、ナクア姫は非常に稀有な存在だといえよう。
侍女にして王女の教育係を兼任するクレアは、今日も羊皮紙の書物と向かい合い母国の歴史を学ぶ姫を、誇らしげな気持ちで見つめていた。
「ねぇ、クレア。ここなんだけど……」
「はい、姫様。なんでしょう」
気位の高い王族にありがちな見栄を張ることもなく、わからない箇所を素直に訊ねることのできるナクアは多くの従者たちからも好かれていた。
クレアもそのうちの一人だ。否、むしろ筆頭である。
(あぁ、姫様。今日もお綺麗ですわ……)
真剣な面持ちで書面と向かい合うナクア姫の横顔にじっと見蕩れてしまう。
乳白色の肌に、透き通るような白金の御髪。毎朝触れているはずなのに、今日はやけに眩く、また艶かしく映る。
いますぐその小さな体を抱きしめて頬をすり合わせたい欲望に駆られるが、しかしそれらの感情は一切表に出すことなくクレアは問いかけにのみ答えていった。
「聖人シュバルツェンは山々に眠る神の恵みを授かり、やがてこの地に町を作った。とあります。これは、この国が今も採掘によって成り立っていることの証左になっております」
「うん……でも、鉱物だっていつかは尽きるでしょ? そうした、使い終わった採掘場って、どうしているのかなぁ」
無邪気な童女が空の青さを訊ねる時のような口調で、現実的で発展性のある疑問を口に出来る王女はそうそういない。聡明なる我が主にクレアの好意はとめどなく積もり重なっていく。
「そうですわね。仰るとおり、採掘し終わった鉱山は閉鎖し、そのまま放置している場合がほとんどです」
クレアはそこで言葉を区切り、ここしばらくの王国の情勢について姫に説明すべきかためらった。
国を取り囲む山々のそこかしこに放置された廃鉱は、逃亡犯や盗賊の隠れ家になっている可能性が非常に高い。悪人にわざわざ住処を与えているようなものだが、しかしジュバール王がその改善に動く気配はなかった。
いつの頃からか、王は旧文明の遺物が引き起こすマホウという妄想に取り憑かれ、国政を蔑ろにする事が多くなっている。
治安や政策は第一王女アトラや各大臣が支えているが、高官の中に謀反を企む者がいないとも限らない。事実、つい先日それなりの地位にいた大臣が不忠を働いた事件はクレアの記憶にも新しい。
しかし今、あの時以上の事件が城内を上へ下へと騒がせていた。
くだんの大臣の従者をしていたメイドが、衛兵を殺し城外に逃亡したのだ。
(アド……あなた、どうしたの?)
ドラウザ大臣の秘密を泣きながら暴露してくれた、小柄なメイドの顔を思い浮かべる。あの時はとてもこんな凶行を犯す娘には見えなかった。
数日前に他人の不正を暴いた人間が、一転して騎士団から追われる身となり、彼女の行方はようとして知れない。
こんな暗い話題を、果たしてまだあどけなさの残るナクア姫に伝えるべきだろうか。
「く、クレアさん! 大変です! すぐにお越しください!」
物思いにふけっていると、突如、部屋の外から慌てた様子の声が飛び込んできた。入り口に目を向けるが、声の主は姫の自室に無断で立ち入るほど冷静さは失っていないらしく姿を現さない。
だが扉越しにも焦れた気配は伝わってくる。一体、今度は何があったというのか。
クレアは小さなため息をつき、きょとんとしているナクア姫に頭を下げた。
「……姫様、申し訳ございません。少し席を外してもよろしいでしょうか」
「う、うん。いいよ。早く行ってあげて?」
「申し訳ございません」
もう一度深々と頭を下げ、後ろ髪をひかれる思いで廊下に出る。
扉の向こうにいた人物が伝えたのは、捕縛されたアドが先ほど謁見室に通されたという話だった。
*:ドラウザ
扉が閉じられ、部屋の中にはナクア姫一人だけが残された。
彼女はしばらく侍女の出て行った扉を見つめ、しかしその視線はすぐに手元の本に戻される。
小さな唇を少し上向きに尖らせ、青い瞳を横長に細めた表情は、あどけない少女が意地悪をされてむくれているようにも見えた。実際のところは先ほどの話──廃鉱についての問題──に思い巡らせているのだろうが、幼い姫君の所作は何をしても何を考えていようとも「愛らしい」の一言に尽きる。
息遣いすら聞こえてきそうな距離からその顔を見つめるドラウザは、いまにもヨダレを垂らしそうなほどのだらしない笑みを浮かべながら、そんなことを考えていた。
(あぁ、やはりナクア姫は美しい……!)
醜悪な顔が間近にあるというのに、ナクアは平然としている。
文字を追うのに夢中なのではなく、そもそもドラウザの現在の姿は彼女に映っていないのだ。
【ソウルイーター】のマホウによって霊的存在へと変化した大臣は、人間の目には映らない。そのうえ空を自由に飛び、あらゆる物体をすり抜けることが出来る。鍵の掛かった部屋など何の障害にもならなかった。
たが、この魔道具の真価はそんなところにはない。
(ぐふふ……さぁ、ワシと一つになりましょうぞ、姫様)
ドラウザは欲望の赴くまま舌なめずりをして、姫の小さな肩に黒ずんだ半透明の腕を回し。
その太さとは比べ物にならぬほどの細く白い腕に、重ね合わせた。
「ぅ……ん?」
小さな声を漏らし、ナクアの目が自身の右腕を見る。
感覚が喪失していることに気付いたのか、学者めいていた聡い顔つきがみるみるうちに戸惑いに怯える童女のそれへと移り変わった。
「え……な、なに……」
(ぐふっ、次は左腕ですぞぉ)
誰の耳にも届かないドラウザの宣言が実行され、一瞬のうちに両腕の感覚を奪い取る。
力の抜けた手から、ぱたりと羊皮紙の本が滑り落ちた。
「ひっ!?」
恐怖に引きつった姫の声が室内に響くが、ドラウザの侵蝕は止まらない。
震える華奢な両脚に。余分な脂肪の付いていない胴に。肉体という壁をすり抜け、黒き魂がずぶずぶと無遠慮に沈み込んでいく。
「ぁっあっぅ、ぅ……っ。クレア……たす、けて……」
(ご安心ください、すぐに終わります)
苦しげにあえぐ姫の横顔に頬をすり寄せ、これも重ね合わせる。
影の残滓さえなく、ナクアの中に全てが差し入れられた瞬間、彼女の体は一度大きく痙攣をした。
「うっ……! あ、あぁ……!」
そのまま力尽きたように俯き、部屋の中が沈黙に包まれる。
やがて姫の唇が横長に吊り上がると、喉から出る甘やかな声色が品のない笑いをこぼした。
「……ぐふっ」
自らの小さな手を見つめ、細い指を二度、三度と繰り返し握り開く。
感動のためぷるぷると震えていた唇をついに大きく開け、『ナクア』は王女らしからぬ哄笑を上げた。
「ぐひっ、ぐひゃははは! やったぞ! ワシは今、姫様と一つになっている! くく、ぐはああああはははっ!!」
自身を掻き抱き、溢れんばかりの愉悦に興じる。
そんな姫の姿をもし他人が見れば、気でも触れたのかと思うのが関の山だろう。
小さく可憐な姫君の肉体に、あの醜悪な大臣の魂が入っているなどと、誰が思うものか。
他人に乗り移り、肉体を支配する【憑依】のマホウ。これこそが、魔道具ソウルイーターの真価である。
「さて、時間もないことだ。早速はじめようかぁ」
あどけのない姫の顔に好色な笑みを刻みつけ、ドラウザはイスから立ち上がると鏡台へと向かった。
「おほぉ……間違いなく姫様だぁ」
ニタァと、本来の姫ならばするはずもない表情を鏡に映し込む。
姫の視界で姫の姿を捉え、身じろぎをするたびに姫の柔肌が姫の衣服とこすれ、姫の唇から漏れる吐息が鏡面を白く濁らせ、硝子に反射した姫の甘い息が姫の鼻腔をくすぐり、むずかる姫の声が姫の耳朶を打つ。
ナクア姫しか知りえない彼女の五感を共有し、体験している事実に、ドラウザの興奮は止む事がない。ドクドクと心臓が早鐘を打ち、この鼓動すら姫のものだと思うとますます気持ちが昂揚していった。
「んっ……んっ、ちゅっ……はぁ、ぅんっ……ふぅぅ……っ」
鏡面世界の姫と口付けを交わし、舌を絡ませる。冷たく硬い硝子の感触と、それに触れる姫の唇の柔らかさを存分に味わう。
「んっ、んむっ、んゅぅっ……! ぷぁっ、はぁ、ああ……気持ちいい……姫……ひめぇ……んあぅっ……ちゅっ……」
何度も何度もうわ言のように呟き、鏡をナクアの唾液でベトベトにしていく。塗りつけた自らの分泌液を再び舐め取ると、姫君の味が舌を痺れさせた。
「ふひひっ……。では、お体を拝見させて貰いましょうか」
口の中いっぱいに溜まった生唾を飲み込み、ドレスの上半身をはだける。
ビスチェの下着をほとんど抵抗なくめくり下ろすと、ナクアの小さな胸が露わになった。
「おぉ……おおおおおおっ!」
乳白色の肌と、わずかばかりの隆盛を見せる慎ましやかな乳が目の前にさらけ出される。
いつだったか他国で見かけた、薄い珊瑚のような色合いをした乳首と乳輪が外気にさらされ、じんわりと居心地の悪さを感じさせた。
姫の体が、恥らっているのだ。そしてその感覚を、自分も共有している。
興奮のしすぎか、めまいを覚えた。
「ワシは……ワシはぁ……私が、ナクアで……ナクアは、私で……んぅっ」
息遣いを荒くして、ドラウザはナクア姫とより深く繋がるべく、しなやかな指で薄桃色のそこに触れる。
「んひぅっ! あっあっ、これは……すごっ……んんんぁっ!」
小さな蕾はまるで電流を放つスイッチだった。
指の腹でこするたびにゾクゾクと背筋が震え、脳髄が快楽に打ちのめされる。
「あぁっ、あぁん! んんっ! あああぁっ……ひあぁっ!」
(姫が喘いでおられる……ワシの愛撫で悦んでいらっしゃる……!)
嬌声を上げる姫の姿が、そのまま興奮に直通する。想像上でなく、現実に目の前で淫れているナクア姫の体を、ドラウザは思うがままに貪った。
ぷっくりと勃起し始めた乳首をつまみ、もう一方の胸は手のひら全体で押しつぶすようにこねくり回す。
「はぁっ、ハァッ、んっ、ふあぁッ! あぁ、あっ! あっあっ、んふぃぅっ!」
もはや喘ぐだけのメスに成り下がろうと、ナクア姫の美しさは損なわれない。自慰行為すら、芸術品めいた可憐さがあった。
股の辺りがじん、と熱くなり、脚がガクガクと震えている。
射精がこみ上げてきたときの感覚に良く似た、絶頂の予感に支配される。
「あ、ああ……っ! もうすぐ……イク……イキそ……うあぁぁんっ!」
頭の中が真っ白になり、気持ちの良いことだけしか考えられなくなる。
指は止まらず、胸だけで絶頂に達するのはもう間もなくだった。
「んぁっ、あっあぁっ、あっあぁッ────……………………え?」
貪欲に動いていた指先が突然停止し、享楽的に喘いでいた声が息を潜める。
赤い顔をして快感を満喫していただらしのない笑みが、みるみるうちに戸惑いへと変わっていく。
「わ、わた……私……なに、して……んぅっ!?」
唖然とした顔に苦痛が走り、そこで初めて、乳首を挟み込む自身の指先に気が付いたような表情を浮かべた。
「きゃああ!? な、なに!? 私、何をして……!?」
慌てて手を離し、はだけられた上半身を隠すように抱きしめる。
股間の疼きや刺激を求め続ける乳房を自覚し、『ナクア』は顔を真っ赤に染め口をワナワナと震わせた。
*:ドラウザ
「クソが! あと少しというところで!」
先ほどまでの心地良さとはうって変わって気だるい肉体を起こし、ドラウザは憤っていた。
もう少しでイケそうだった。あとわずかな時間さえあれば、ナクア姫の極致を共有できた。
しかし【憑依】のマホウには制限時間があり、ドラウザの魂は絶頂間近というところで彼女の体から追い出されてしまったのだった。
「なんという不便な道具だ……!」
同じ対象に何度も憑依をすれば、支配する時間は長くなる。事実、最初に姫に乗り移った時と比べ今回はそれなりに長い時間あのカラダを自由に出来た。
もっとも、最後まで姫の快感を味わうことの出来なかったドラウザにとっては、今後における有用性など無意味に等しい。
(もう一度魔道具を使うか? いや、しかし)
直前までの肉体の影響か、視線を下ろすと大臣の股間は凶悪なまでに腫れ上がっていた。
あの余韻を味わいながら、男としての快楽に没頭するのも悪くはない。それに今頃は、元に戻った姫が「続き」をしているかもしれない。
時を同じくして姫と同じ行為に及ぶというのは、存外、悪い考えではなかった。
欲望に狂ったドラウザが、高官としての冷静な判断力を取り戻す。
(そうだ、あせる必要はない)
時間はたっぷりある。
これから幾度となく憑依を重ね、徐々に姫の支配時間を増やしていけばいい。
「ぐふふ……今は、これで充分だ」
ドラウザはズボンの隙間から屹立した男根を取り出すと、先ほどまでの自慰を思い返しながら上下に激しくこすり始めた。

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