部活動 ~水泳部
ちょっと「退屈な書斎」は中断して
続かない短編モノを書いています
手始めに一本目
続かない短編モノを書いています
手始めに一本目
鬱陶しいぐらいにセミが鳴きまくるこの季節。暑いのが大変苦手な彼にとって夏は地獄にも等しかった。
しかし乙女たちが薄着でうろつきまわる天国でもあり、嫌いになりきれないでもいた。彼のスマホに入っている『コレクション』も夏に撮影した画像がほとんどだ。
制服のブラウスにうっすら浮かび上がるブラ。甲子園出場に燃える野球部を応援するチア衣装の少女。そしてなんといっても女体の美しいラインがくっきりとあらわれる水着姿。
それらを枕元に置き、夢心地のまま眠りにつく。そんな日々に何の不満も抱いていなかった。
とはいえ同じ写真ばかりでは飽きるため、新鮮なネタは常に探し求めている。
なかでも彼のお気に入りは、水泳部に所属する上級生の倉科瑞波(くらしなみずは)だった。
彼女は均整のとれた、非の打ち所がないプロポーションを持つ美女だった。
競泳用の水着に包まれた胸ははち切れそうなほど存在を主張し、胴回りは彼の半分以下よりもさらに細い。すらりと伸びた脚は色白で瑞々しく、それでいてアスリートらしくしっかりと引き締まってもいた。
屋内プールのため侵入は容易ではない。だが、床の小窓から練習風景を激写するだけなら彼にも不可能ではなかった。
地面に這いつくばってカメラを構える男の姿は学園の敷地内であろうが警察沙汰の光景だが、咎める人間は居ない。ちょうど小窓の近くには小藪が生い茂り、場所も建物の裏手に当たるため彼が見つかったことはなかった。
「それにしても……ちゃんと使えるのかな、これ」
水泳部の練習が始まるまでの間、彼は部室から持ち出した古めかしいフィルムカメラを疑わしそうに覗き込む。
普段は写真部として活動し、デジタルカメラを片手に学園内の美少女達を撮影していた。ところが手に入れたばかりの最新機種が急に動かなくなり、代わりに見つけたのがこの旧型カメラだった。
スマホでの撮影も考えたが、望遠レンズもついていないカメラ機能程度ではたかが知れている。この古いカメラがどれだけの性能を秘めているかわからないが、ファインダー越しに映る風景は最新機種と遜色がなかった。
「おっ、はじまった」
静かだった屋内プールに女の黄色い声が湧き上がり、小窓の隙間からは部員達の生脚が動いているのが見える。
彼は早速レンズを向け、倉科瑞波の姿を探した。
女子水泳部の面々には、整った顔立ちをした者や生唾を飲み込む肢体の持ち主も少なくない。しかし彼は倉科瑞波以外には目もくれず、ついにその姿をフレームに収めた。
ちょうどスタート台の前に立ち、柔軟体操をしている。
彼は唇を吊り上げ、シャッターボタンを力強く押した。
カシャリ、という古めかしい音がし、それまでの高揚感から一転して血の気が引く。予想以上に大きなシャッター音だった。
今までサイレントモードで撮っていたため、それに慣れすぎていたのもある。
音に気付き、数人が不思議な顔をして辺りを見回した。こんな場所に隠れて撮影をしているなどと知られたら、どんな罵詈雑言を浴びせられるかわかったものではない。盗撮野郎の烙印を押され、二度と平穏な学園生活は戻ってこないだろう。
逃げなければ。そう思って植え込みから抜け出そうとしたが、体が動かない。
驚くよりも早く続けざま激しいめまいに襲われ、彼は意識を失った。
「……ぱい。倉科先輩!」
すぐ近くから少女の声がし、彼はハッと正気を取り戻した。
目の前には、水着姿の水泳部員がいた。彼はついに見つかり詰問されているのだと思い、慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! もう二度としませんから、誰にも言わないで下さい!」
猛然と謝罪した声は、妙に反響していた。
カラダを折り曲げた瞬間、弾むような振動が胸に伝わる。足元の視界を遮ったのは、突き出た腹よりも上部に位置する胸部の膨らみだった。
「え……」
足の裏から感じるのは地面ではなく、タイル貼りの床の冷たい感触だ。
カラダを締め付けるように包み込むのは、学園指定の女子用競泳水着である。目の前には屋内プールの内装がひろがり、同じ水着を着た水泳部員たちが心配そうに『彼』を見ていた。
「いきなりどうしたんですか、先輩? 急にぼぉっとして…………さっき、何を謝っていたんです?」
先程の女子部員が、全員を代表して声を掛けてくる。戸惑いこそあれ、盗撮野郎を糾弾している様子ではない。
『彼』は慌ててプールサイドを飛び出し、更衣室へ向かった。
鏡に映りこんだのは、驚いた表情で『彼』を見つめる倉科瑞波の姿だった。
「センパイ……? え、なんで、どうして」
右手で頬をさすると、鏡の中の瑞波も同じ動きをする。耳に届くのは女の声ばかりで、『彼』の声はまったく聞こえなかった。
「僕が、瑞波センパイに?」
鏡面世界を覗き込む瑞波の唇が、思った通りに動く。
表情に本来の彼女が持つ、たおやかさとか知性的な雰囲気はいっさいなく、ひたすら目の前の事態にのみ驚き、戸惑っていた。
だがそれもしばらくすると、イビツな笑みに取って代わる。
「これが、瑞波センパイの体かぁ……」
嘗め回すような目で全身を見下ろし、ファインダー越しなどではない生身の水着姿を近距離から観察した。
原因はわからない。本物の倉科瑞波がどうなったのかも、本来の自分の肉体がどうなったかも、今の彼にはどうでも良かった。
憧れの美女のカラダを、思うが侭に出来る。そんな機会に恵まれ、興奮を抑えきれるはずがない。
全身を覆う心地良い感触に誘われるまま、両手を慎重に這わせる。
肩紐のラインにかかる鎖骨を撫で、胸元の稜線をなぞり、贅肉のない腹やくびれた腰つきを指先で確かめる。丸みを残しつつも引き締まった尻を撫で、食い込んでいた水着を整えた。
しなやかで美しい指が肌の上を滑るたびに、ゾクゾクとした興奮に震える。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
彼は女体を探索する両手を胸元まで呼び戻し、美しく張り出た乳房を水着の上から握りつぶすように鷲づかみした。
「った……んっ、んふぅっ」
頬をつままれたような軽い痛みが走り、すぐに力を緩める。
優しく、慌てず、柔らかい粘土をこねるように改めて胸を揉む。同じ脂肪の塊なのに、腹の贅肉とは触り心地が全く違った。
手のひらよりも大きな胸は、五指に弄ばれるまま、様々な形へと変わっていく。目の前の鏡には、だらしのない笑みを浮かべて胸をいじる瑞波の姿があった。
「ふひぇっ、しぇ、センパイが……僕の前でこんなにエロイ顔してる」
ろれつが回らないまま口に出した台詞が、そのまま瑞波の声として再生され、骨伝道を介して直接脳に響く。
艶かしく喘いでみせると、彼は自分が男だった頃の声色などすっかり忘れ、ひたすら『瑞波』としてよがり続けた。
「んっ、は、あっ、んひゃぅ、んくっ……はぁ、はぁ……ぁんっ」
小さな手を水着の中に差し入れ、内側から直接いじる。ただでさえ大きな胸をギチギチに押さえ込んでいた水着がさらに窮屈になり、侵入させたはいいが大胆に動かせなくなってしまった。
代わりに乳首が爪の先端でこすれ、気にもならない程度の痛みが混ざった甘い刺激に意識が蕩ける。
「ふぁん……っ、あ、は、はぁ……くぅん」
甘い刺激には甘い嬌声で応え、彼はシコリはじめた蕾を何度も指先で弾いた。
「あはぁ……ひぐっ、うぅ、う、ふぁ、んんぅ……アッ、ああっ、はひゃんっ!」
時折泣き声のような喘ぎを交えさせながら、乳房と水着に挟まれた指はその間で苦しみもがくようにのた打ち回る。
「ふひぁっ、ひぃっ、んぁ……き、気持ち、いい……んンッ」
乳首は硬度を増し、水着の上からでもはっきりと形がわかるほどそそり立っていた。自由の利く片方の手で浮かび上がったそれを摘むと、ひときわ大きな声が上がった。
「きゃぁんッ、んくっ……あぁ、えろぃ……センパイの体、すげぇエロいぃ……」
鏡の中で倉科瑞波が乳首をいじり、頬を昂揚させて淫らに喘いでいる。水着を着たままの自慰など、おそらく本人もした事がないだろう。
誰も知らない瑞波の姿を、自分だけが見ている。そうした征服感が快い気持ちをますます酔わせる。
彼は片手で再び瑞波の肢体を堪能し、足の付け根へと導いた。
そこは先ほどから興奮を感じつつも、男の息苦しいまでの怒張やたかぶりといったものはなく、痺れるような疼きとせつなさだけを訴え続けている。
恥丘を越えて奥まった場所に指を添えると、やはり男の象徴はそこになく、小さな手でも容易に股間を覆い隠す事が出来た。
水着の上から指を押し込めると、睾丸などとは比べ物にならない柔らかな肉に指がめりこむ。
「あひぅっ、ふっ、あぁんっ!」
初めて触れた女性器の感触とそれに伴う快感に仰け反り、一瞬、すべての思考が消え失せる。
カラダをまさぐる両腕も停止し、凄まじい快感に恐怖すら覚えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……んぐっ」
大きな音を立てて生唾を飲み込み、胸と股間、両方への愛撫を再開していく。左手で胸の柔らかさを堪能し、右手は性器を傷付けないよう極めて丁寧に触れた。
水着の上から指を割れ目に押しつけ、前後にこすっていく。
柔肉の他にも、じゃりじゃりとした手触りを生地の内側から感じる。正体は陰毛だろうか。
いかにも清廉潔白とした美女であろうと、瑞波は成熟した肉体を持つ人間だ。生えているのはむしろ当然なのだが、彼女の秘密を覗き見たような気がして、ますます『瑞波』の鼻息は荒くなった。
「ふー、ふーっ……ああっ、くぁぅっ」
最初に触れたときよりも強めに指を押しつけ、柔肉の奥深くへ侵入を試みる。
股間から水とは性質の違う湿り気を感じ、彼は指先に目を凝らした。
「ふひはっ……ぬ、濡れてる……んっ、ちゅぱっ、ちゅ……っ」
愛液を含んだ指先を唇に近づけ、いやらしく嘗め回す。胸を揉みしだいたままうっとりと自らの指をフェラチオする彼女の姿は異様であり、淫靡だった。
「んちゅっ……ちゅ、ずぷっ……んぁあ……たまんねぇ……っ」
粗雑な言葉を使い、男そのものの下劣な笑みで唾液まみれの指先を股間に戻す。
胸と密着し暴れまわる左手の影響で、水着が食い込んでいる。彼は先ほど触れた陰部から、ほんの少し上に逸れた位置を探り始めた。
「クリトリスってのは……このへん……んっ、ああああッ!」
隠語を紡ぎつつ股の間をうろついていた指が、女体の中でも最大級に敏感な箇所に不用意に触れた。
瞬間、目の前が真っ白になり、吹き飛びそうになる意識をつなぎとめるように胸を強く握る。胸部の痛みは、下半身から立ち上る強烈な快感に塗りつぶされてしまった。
「す……すご……なんだ、これ。気持ちいいなんてもんじゃないぞ……」
男の快感とは比較しようのない、今度こそ未知の刺激だった。短く荒い息をつきながらもう一度触れると、体が意図せずに跳ね上がる。
「ふぁっ、んんぅっ、くぅっ……やばい、これ、やば……! んぁあっ!」
今度は手の動きを止めることなく、脳が痺れるほどの快感を味わい続ける。
快楽の激流は理性を連れさらい、彼は欲望のまま倉科瑞波の肉体を貪った。
いやらしく喘ぐ女の声。だらしなく緩みヨダレをこぼす唇。競泳水着の中に挿入し、己の胸を揉みしだく小さな手。ピンと浮かび上がった乳首。愛液をかき回す卑猥な水音に、軽い絶頂を幾度も呼ぶ肉芽と陰部。
彼女の体からもたらされる全ての刺激に没頭し、何度も短い失神を迎える。
彼は彼自身の存在を完全に忘れ、鏡の中で悶える美女と一体化していた。
「あぁっ、はぁっ、はひぁんッ、ふぁぁ、んっ! くる……くるぅ……また、イクぅッ!」
膣の浅い箇所に指を突き入れ、淫核を挟み、乳首を思い切りひっぱる。
三つの性感帯が同時に爆発し、これまでで一番の絶頂に達した。
「アッ、あぁっ! んあっ! ああああああああッ」
全身が独りよがりの官能に満たされ、頭の中が白い光に満たされる。
がくがくと膝が震え、瑞波の体は力尽きたように床の上に崩れ落ちた。
*
耳元で蚊の羽音を聞き、彼は勢い良く飛び起きた。
彼が寝ていたのは小藪の中……プールサイドの近くにある植え込みだ。いつのまにか日が傾き始め、そして顔をはじめとした至る箇所が蚊に食われていた。
それに気付いた瞬間、凄まじいかゆみに全身が襲われる。
「かゆっ、うわっ、かいいいいいいぃ!」
脂肪まみれの男の肉体に爪を立て、服の内側まで赤く膨れ上がった肌をかきむしる。
倉科瑞波のカラダになったのは夢だったのか、現実だったのか。
快楽の余韻すらかみ締める間もなく、彼は悲鳴を上げてその場を離れた。
倉科瑞波が、更衣室で失神をしていることも。
股間が愛液で滲み、乳房に手を添えたその姿を後輩が発見したことも。
植え込みの中に部室で見つけたカメラが取り残され、フィルム残数が一枚減っていることも。
彼は知る由もなく、立ち去ってしまった。
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しかし乙女たちが薄着でうろつきまわる天国でもあり、嫌いになりきれないでもいた。彼のスマホに入っている『コレクション』も夏に撮影した画像がほとんどだ。
制服のブラウスにうっすら浮かび上がるブラ。甲子園出場に燃える野球部を応援するチア衣装の少女。そしてなんといっても女体の美しいラインがくっきりとあらわれる水着姿。
それらを枕元に置き、夢心地のまま眠りにつく。そんな日々に何の不満も抱いていなかった。
とはいえ同じ写真ばかりでは飽きるため、新鮮なネタは常に探し求めている。
なかでも彼のお気に入りは、水泳部に所属する上級生の倉科瑞波(くらしなみずは)だった。
彼女は均整のとれた、非の打ち所がないプロポーションを持つ美女だった。
競泳用の水着に包まれた胸ははち切れそうなほど存在を主張し、胴回りは彼の半分以下よりもさらに細い。すらりと伸びた脚は色白で瑞々しく、それでいてアスリートらしくしっかりと引き締まってもいた。
屋内プールのため侵入は容易ではない。だが、床の小窓から練習風景を激写するだけなら彼にも不可能ではなかった。
地面に這いつくばってカメラを構える男の姿は学園の敷地内であろうが警察沙汰の光景だが、咎める人間は居ない。ちょうど小窓の近くには小藪が生い茂り、場所も建物の裏手に当たるため彼が見つかったことはなかった。
「それにしても……ちゃんと使えるのかな、これ」
水泳部の練習が始まるまでの間、彼は部室から持ち出した古めかしいフィルムカメラを疑わしそうに覗き込む。
普段は写真部として活動し、デジタルカメラを片手に学園内の美少女達を撮影していた。ところが手に入れたばかりの最新機種が急に動かなくなり、代わりに見つけたのがこの旧型カメラだった。
スマホでの撮影も考えたが、望遠レンズもついていないカメラ機能程度ではたかが知れている。この古いカメラがどれだけの性能を秘めているかわからないが、ファインダー越しに映る風景は最新機種と遜色がなかった。
「おっ、はじまった」
静かだった屋内プールに女の黄色い声が湧き上がり、小窓の隙間からは部員達の生脚が動いているのが見える。
彼は早速レンズを向け、倉科瑞波の姿を探した。
女子水泳部の面々には、整った顔立ちをした者や生唾を飲み込む肢体の持ち主も少なくない。しかし彼は倉科瑞波以外には目もくれず、ついにその姿をフレームに収めた。
ちょうどスタート台の前に立ち、柔軟体操をしている。
彼は唇を吊り上げ、シャッターボタンを力強く押した。
カシャリ、という古めかしい音がし、それまでの高揚感から一転して血の気が引く。予想以上に大きなシャッター音だった。
今までサイレントモードで撮っていたため、それに慣れすぎていたのもある。
音に気付き、数人が不思議な顔をして辺りを見回した。こんな場所に隠れて撮影をしているなどと知られたら、どんな罵詈雑言を浴びせられるかわかったものではない。盗撮野郎の烙印を押され、二度と平穏な学園生活は戻ってこないだろう。
逃げなければ。そう思って植え込みから抜け出そうとしたが、体が動かない。
驚くよりも早く続けざま激しいめまいに襲われ、彼は意識を失った。
「……ぱい。倉科先輩!」
すぐ近くから少女の声がし、彼はハッと正気を取り戻した。
目の前には、水着姿の水泳部員がいた。彼はついに見つかり詰問されているのだと思い、慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! もう二度としませんから、誰にも言わないで下さい!」
猛然と謝罪した声は、妙に反響していた。
カラダを折り曲げた瞬間、弾むような振動が胸に伝わる。足元の視界を遮ったのは、突き出た腹よりも上部に位置する胸部の膨らみだった。
「え……」
足の裏から感じるのは地面ではなく、タイル貼りの床の冷たい感触だ。
カラダを締め付けるように包み込むのは、学園指定の女子用競泳水着である。目の前には屋内プールの内装がひろがり、同じ水着を着た水泳部員たちが心配そうに『彼』を見ていた。
「いきなりどうしたんですか、先輩? 急にぼぉっとして…………さっき、何を謝っていたんです?」
先程の女子部員が、全員を代表して声を掛けてくる。戸惑いこそあれ、盗撮野郎を糾弾している様子ではない。
『彼』は慌ててプールサイドを飛び出し、更衣室へ向かった。
鏡に映りこんだのは、驚いた表情で『彼』を見つめる倉科瑞波の姿だった。
「センパイ……? え、なんで、どうして」
右手で頬をさすると、鏡の中の瑞波も同じ動きをする。耳に届くのは女の声ばかりで、『彼』の声はまったく聞こえなかった。
「僕が、瑞波センパイに?」
鏡面世界を覗き込む瑞波の唇が、思った通りに動く。
表情に本来の彼女が持つ、たおやかさとか知性的な雰囲気はいっさいなく、ひたすら目の前の事態にのみ驚き、戸惑っていた。
だがそれもしばらくすると、イビツな笑みに取って代わる。
「これが、瑞波センパイの体かぁ……」
嘗め回すような目で全身を見下ろし、ファインダー越しなどではない生身の水着姿を近距離から観察した。
原因はわからない。本物の倉科瑞波がどうなったのかも、本来の自分の肉体がどうなったかも、今の彼にはどうでも良かった。
憧れの美女のカラダを、思うが侭に出来る。そんな機会に恵まれ、興奮を抑えきれるはずがない。
全身を覆う心地良い感触に誘われるまま、両手を慎重に這わせる。
肩紐のラインにかかる鎖骨を撫で、胸元の稜線をなぞり、贅肉のない腹やくびれた腰つきを指先で確かめる。丸みを残しつつも引き締まった尻を撫で、食い込んでいた水着を整えた。
しなやかで美しい指が肌の上を滑るたびに、ゾクゾクとした興奮に震える。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
彼は女体を探索する両手を胸元まで呼び戻し、美しく張り出た乳房を水着の上から握りつぶすように鷲づかみした。
「った……んっ、んふぅっ」
頬をつままれたような軽い痛みが走り、すぐに力を緩める。
優しく、慌てず、柔らかい粘土をこねるように改めて胸を揉む。同じ脂肪の塊なのに、腹の贅肉とは触り心地が全く違った。
手のひらよりも大きな胸は、五指に弄ばれるまま、様々な形へと変わっていく。目の前の鏡には、だらしのない笑みを浮かべて胸をいじる瑞波の姿があった。
「ふひぇっ、しぇ、センパイが……僕の前でこんなにエロイ顔してる」
ろれつが回らないまま口に出した台詞が、そのまま瑞波の声として再生され、骨伝道を介して直接脳に響く。
艶かしく喘いでみせると、彼は自分が男だった頃の声色などすっかり忘れ、ひたすら『瑞波』としてよがり続けた。
「んっ、は、あっ、んひゃぅ、んくっ……はぁ、はぁ……ぁんっ」
小さな手を水着の中に差し入れ、内側から直接いじる。ただでさえ大きな胸をギチギチに押さえ込んでいた水着がさらに窮屈になり、侵入させたはいいが大胆に動かせなくなってしまった。
代わりに乳首が爪の先端でこすれ、気にもならない程度の痛みが混ざった甘い刺激に意識が蕩ける。
「ふぁん……っ、あ、は、はぁ……くぅん」
甘い刺激には甘い嬌声で応え、彼はシコリはじめた蕾を何度も指先で弾いた。
「あはぁ……ひぐっ、うぅ、う、ふぁ、んんぅ……アッ、ああっ、はひゃんっ!」
時折泣き声のような喘ぎを交えさせながら、乳房と水着に挟まれた指はその間で苦しみもがくようにのた打ち回る。
「ふひぁっ、ひぃっ、んぁ……き、気持ち、いい……んンッ」
乳首は硬度を増し、水着の上からでもはっきりと形がわかるほどそそり立っていた。自由の利く片方の手で浮かび上がったそれを摘むと、ひときわ大きな声が上がった。
「きゃぁんッ、んくっ……あぁ、えろぃ……センパイの体、すげぇエロいぃ……」
鏡の中で倉科瑞波が乳首をいじり、頬を昂揚させて淫らに喘いでいる。水着を着たままの自慰など、おそらく本人もした事がないだろう。
誰も知らない瑞波の姿を、自分だけが見ている。そうした征服感が快い気持ちをますます酔わせる。
彼は片手で再び瑞波の肢体を堪能し、足の付け根へと導いた。
そこは先ほどから興奮を感じつつも、男の息苦しいまでの怒張やたかぶりといったものはなく、痺れるような疼きとせつなさだけを訴え続けている。
恥丘を越えて奥まった場所に指を添えると、やはり男の象徴はそこになく、小さな手でも容易に股間を覆い隠す事が出来た。
水着の上から指を押し込めると、睾丸などとは比べ物にならない柔らかな肉に指がめりこむ。
「あひぅっ、ふっ、あぁんっ!」
初めて触れた女性器の感触とそれに伴う快感に仰け反り、一瞬、すべての思考が消え失せる。
カラダをまさぐる両腕も停止し、凄まじい快感に恐怖すら覚えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……んぐっ」
大きな音を立てて生唾を飲み込み、胸と股間、両方への愛撫を再開していく。左手で胸の柔らかさを堪能し、右手は性器を傷付けないよう極めて丁寧に触れた。
水着の上から指を割れ目に押しつけ、前後にこすっていく。
柔肉の他にも、じゃりじゃりとした手触りを生地の内側から感じる。正体は陰毛だろうか。
いかにも清廉潔白とした美女であろうと、瑞波は成熟した肉体を持つ人間だ。生えているのはむしろ当然なのだが、彼女の秘密を覗き見たような気がして、ますます『瑞波』の鼻息は荒くなった。
「ふー、ふーっ……ああっ、くぁぅっ」
最初に触れたときよりも強めに指を押しつけ、柔肉の奥深くへ侵入を試みる。
股間から水とは性質の違う湿り気を感じ、彼は指先に目を凝らした。
「ふひはっ……ぬ、濡れてる……んっ、ちゅぱっ、ちゅ……っ」
愛液を含んだ指先を唇に近づけ、いやらしく嘗め回す。胸を揉みしだいたままうっとりと自らの指をフェラチオする彼女の姿は異様であり、淫靡だった。
「んちゅっ……ちゅ、ずぷっ……んぁあ……たまんねぇ……っ」
粗雑な言葉を使い、男そのものの下劣な笑みで唾液まみれの指先を股間に戻す。
胸と密着し暴れまわる左手の影響で、水着が食い込んでいる。彼は先ほど触れた陰部から、ほんの少し上に逸れた位置を探り始めた。
「クリトリスってのは……このへん……んっ、ああああッ!」
隠語を紡ぎつつ股の間をうろついていた指が、女体の中でも最大級に敏感な箇所に不用意に触れた。
瞬間、目の前が真っ白になり、吹き飛びそうになる意識をつなぎとめるように胸を強く握る。胸部の痛みは、下半身から立ち上る強烈な快感に塗りつぶされてしまった。
「す……すご……なんだ、これ。気持ちいいなんてもんじゃないぞ……」
男の快感とは比較しようのない、今度こそ未知の刺激だった。短く荒い息をつきながらもう一度触れると、体が意図せずに跳ね上がる。
「ふぁっ、んんぅっ、くぅっ……やばい、これ、やば……! んぁあっ!」
今度は手の動きを止めることなく、脳が痺れるほどの快感を味わい続ける。
快楽の激流は理性を連れさらい、彼は欲望のまま倉科瑞波の肉体を貪った。
いやらしく喘ぐ女の声。だらしなく緩みヨダレをこぼす唇。競泳水着の中に挿入し、己の胸を揉みしだく小さな手。ピンと浮かび上がった乳首。愛液をかき回す卑猥な水音に、軽い絶頂を幾度も呼ぶ肉芽と陰部。
彼女の体からもたらされる全ての刺激に没頭し、何度も短い失神を迎える。
彼は彼自身の存在を完全に忘れ、鏡の中で悶える美女と一体化していた。
「あぁっ、はぁっ、はひぁんッ、ふぁぁ、んっ! くる……くるぅ……また、イクぅッ!」
膣の浅い箇所に指を突き入れ、淫核を挟み、乳首を思い切りひっぱる。
三つの性感帯が同時に爆発し、これまでで一番の絶頂に達した。
「アッ、あぁっ! んあっ! ああああああああッ」
全身が独りよがりの官能に満たされ、頭の中が白い光に満たされる。
がくがくと膝が震え、瑞波の体は力尽きたように床の上に崩れ落ちた。
*
耳元で蚊の羽音を聞き、彼は勢い良く飛び起きた。
彼が寝ていたのは小藪の中……プールサイドの近くにある植え込みだ。いつのまにか日が傾き始め、そして顔をはじめとした至る箇所が蚊に食われていた。
それに気付いた瞬間、凄まじいかゆみに全身が襲われる。
「かゆっ、うわっ、かいいいいいいぃ!」
脂肪まみれの男の肉体に爪を立て、服の内側まで赤く膨れ上がった肌をかきむしる。
倉科瑞波のカラダになったのは夢だったのか、現実だったのか。
快楽の余韻すらかみ締める間もなく、彼は悲鳴を上げてその場を離れた。
倉科瑞波が、更衣室で失神をしていることも。
股間が愛液で滲み、乳房に手を添えたその姿を後輩が発見したことも。
植え込みの中に部室で見つけたカメラが取り残され、フィルム残数が一枚減っていることも。
彼は知る由もなく、立ち去ってしまった。

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