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ゆきずりの少女 前編

「ゆきずりの少女 前編」


 この社会は狂っている。
 女を礼賛し女を崇拝し女を保護するのは当然だと言う風潮に、俺はほとほと呆れていた。
 電車に乗れば男は痴漢扱いされ、少女と肉体関係を結べば世間は男ばかりを責め立てる。少女の方から関係を求めてきたとしてもだ。
「畜生……どいつもコイツも……」


 俺は物陰に隠れながら、日の落ちた繁華街の様子を探った。
 警官が追ってくる様子はない。どうやらうまく撒けたらしい。
 俺はその場に腰を下ろし、懐からタバコを出した。
「あの女から誘って来たんだぞ……! 金も払った。正当な取引だろが!」
 数十分前の光景がまざまざと脳裏に蘇り、ライターを何度も擦る。一向に火がつく気配のないライターを地面に投げ捨て、俺は頭を抱え込んだ。
 制服姿の少女とホテルに入るところを、警官に呼び止められた。
 フロントに辿り着いた俺たちの背後に忍び寄り、青服の男が肩を叩いたときの恐怖がいまだに尾を引いている。全身が震え、額に今までかいたことのない汗が噴き出てきた。
 反射的に警官を突き飛ばして逃げたのは、軽率だったのか正しい判断だったのか、今でもわからない。
 わかるのは、あのまま職務質問を受けていたら間違いなく俺の社会生命は終わっていたことだけだ。
 今頃は俺を誘った少女も厳重注意を受けているかもしれない。
 だが、注意だけだ。罰則もなければ、社会生命が潰えるわけでもない。この不平等さはどうだ。
 手を傷めるのも構わず、アスファルトで舗装された地面を叩く。理不尽への怒りが体中に溢れ、抑え切れなかった。
「くそが……くそったれが!」
「ずいぶん荒れてるな」
 ライターを擦る音と、すぐ隣から男の声がしたのはほとんど同時だった。
 振り向くと、気づかなかったのが不思議なぐらいすぐ近くに男が座っていた。
 二十代半ばぐらいの、若い男だ。くわえタバコの先端に火をつけ、うすく開いた口角の隙間から煙をくゆらせている。
「いるか?」
 着火したままのライターを俺に差し向け、気さくに声を掛けてきた。
 浮浪者のようなみすぼらしい姿ではないが、かといって俺のような会社勤めの恰好でもない。黒を基調としてはいるが、その他に特筆すべき点のないどこにでもいる若者風の服装をしていた。
 俺は無言で火を受け取り、同じようにタバコをくわえる。口の中や肺に煙が流れ込み、それを吐き出すとささくれ立った心もいくらか落ち着いた。
「……なんだお前は。いつから隣にいた?」
「オレのことを説明するのは難しいし面倒だ。いつからいたなんてのは、カケラも重要じゃない」
 そんなことより、と男はタバコをくわえたまま、薄く笑った顔を俺に向ける。
 タバコの蛍火が映し出した男の目は、塗りつぶされたように真っ黒だった。
「お前さ、女になってみたくねぇ?」
 不気味な瞳と笑顔で囁かれた言葉は、一瞬で俺の心を捉えた。


 特別な道具は必要ない。男はそう言い、女のカラダを俺のモノにする方法を伝えるとふらりと姿を消してしまった。
 呼び止める気にもなれず、男と別れた俺は待ち合わせで有名な銅像の近くで立ち止まり、改めてタバコをふかす。
 煙を吐き出す瞬間に、気に入った女を凝視する。たったそれだけで、俺の意識は女の身体に乗り移り、自由に動かす事が出来るのだそうだ。
「ふぅー……」
 異常者の妄言。そう切り捨てることはいくらでも出来る。
 吸っているのは俺が普段から持ち歩いているタバコで、もちろんこれまでにそんな現象など起きたことはない。
 だがあの男の、あの目。異常なほど爛々と輝いた、光沢を持った漆黒の眼球が、いまだに俺の心を捉え続ける。
 俺はもう、男が普通の人間ではないことを確信していた。そして人間ではない何者かが囁いた欲望へのいざないに、疑う心は少しずつ解きほぐされていく。
(やってみるか……)
 俺は自嘲を浮かべ、タバコの煙を吸い込んだ。
 待ち合わせの場所には、沢山の女がいる。そのうちの一人……俺をホテルに誘った女と同じ制服を着た少女に、思わず目が留まった。
「ふぅー……ぅ」
 スマホを眺める彼女から視線は離さず、口の中に溜め込んだ煙をゆっくりと吐き出す。
 全身の力が抜け、一瞬のめまいがやってきた。
 そしてはたと気が付けば、俺の視界は一変していた。少女の姿が消え、タバコの代わりにピンク色のケースにはめ込まれた可愛らしいスマホを持っている。
「え……お、おおっ?」
 自分のカラダを見下ろすとスーツを着た男の体はそこになく、青のリボンタイと視界を遮る胸の膨らみがあった。
 顔を動かすと長い髪の毛先がさらりと肩に流れ、チェック柄のスカートが揺れる。わずかに吹いた風がストッキングの表面を撫でると、脚全体がさすられたような感覚が走った。
「は、はは……マジか……」
 思わず上げた声は柔らかく、甘みのある高いものだった。驚くほど小さな手としなやかな指で喉をさするが、何の手応えもない。
 俺の意識は、少女の中に入っていた。
(待てよ。じゃあ、俺の身体は?)
 周囲を見渡すが、タバコをふかす俺の姿はどこにも見当たらない。
 地面に倒れているというわけでもなく、まるで最初から存在していなかったかのように忽然と消えていた。
「どういうことだ……んぅっ?」
 いきなり下半身がムズムズと落ち着かなくなり、焦燥感に駆られる。思わず脚を閉じてもムズ痒い感覚は収まらず、股間の筋肉が緊張し始めた。
「くっ……ふっ……これ……は……」
 その感覚の正体が尿意だと理解した瞬間、俺は自分の体がどこに消えたのか考えることをやめ、一目散に公衆トイレへと駆け込んだ。


 個室に入り、スカートをたくし上げる。
 当たり前といえば当たり前だが、下着も女物だった。ストッキング越しに透けて見えるショーツは股間にピッタリとはりつき、男の自分がこれを違和感なく身に着けているのだと思うと動悸が激しくなる。
「んっ……と、とにかく、ますは小便だ……」
 小便と口にした可愛らしい声にまたもゾクゾクする。少女のカラダで行う自分の一挙手一投足が、全て興奮につながっていた。
 ストッキングとパンツを下ろす肌の擦れも、便座の座り心地も、もちろん股間から小水を吐き出す感覚も、何もかもが男の時と異なる。
 女しか体感できない一連の動作を男の俺が行っているのだという倒錯感は、いつしか支配する快感へと変換されていった。
 スマホを鏡代わりにしてのぞき込むと、化粧気の少ない幼げな顔立ちが頬を歪めてこちらを見ている。
「これが今の俺……俺の身体……この娘の全部が、俺のモノ……」
 自分の思った通りに動く少女の顔を見つめ、ブツブツとうわ言を繰り返す。
 排泄を終えたばかりの股間が、ぶるりと震えた。
 わずかに残っていた尿が、割れ目の隙間からしみ出してくる。……いや、尿じゃない。愛液だ。
 俺の興奮に反応して、少女の身体も同じように興奮している。ココロとカラダの一体感に、体中を流れる血液が沸騰するような熱さを感じた。
「はあ……はあ……!」
 呼吸をするたびに漂う甘い香りが理性を薄れさせ、欲望の波が氾濫する。
 気が付けば俺は、スカートの中に手を忍ばせていた。
 柔肉の入り口に指先をあてがい、弾力のある割れ筋に触れる。
 同じ年頃の少女を買ったことはこれまでにもあるが、女の指で触れるそこは男の時よりも遥かに柔らかかった。
 同時にやってくる「触られている側」の感覚は完全に未知の領域で、気持ちが良いのかどうかすらよくわからない。
「んっ、ふぅう!」
 背筋がゾワリと震え、全身が総毛立つ。
 先ほど味わった尿意からの解放感にも似た快感。それが一瞬では終わらず、ずっと体の奥底に残留しているような気分だった。
「これが、女の感じ……なのか? ひぅんっ」
 触れる角度を変えながら性器を弄り回し、割れ目の上の方にあった突起物を指で軽く押しつぶす。その瞬間、身体にまとわりつくような快感が、攻撃的なものに変わった。
 ビリッとした強い刺激が下腹部から一気に脊髄を駆け上り、明確な痺れをもたらす。
「はあっ、ああああっ!」
 天井を仰ぎ、はしたなく嬌声を上げる。それでも指はまるで別の意志を持ったかのようにクリトリスを弄る手を休めなかった。
 コリコリとした感触を味わえば、無意識に内腿が跳ね上がる。突起を押すたびに体を震わせ、甲高い声が飛び出てしまう。
 まるで玩具になった気分だ。遊べば遊ぶほど湧き上がる女体の快楽に、心が溺れていく。
「ふああっ、あんっ、くうう……!」
 女の快感は、男の比ではなかった。
 今まで自分が買った少女たちを思い返してみれば、全員が全員、今の俺と同じような表情をしていた。
「はぅっ、くそ……! なんて連中だ……! あふんぅっ!」
 こんなに気持ちの良い思いをしながら、金まで稼いでいる。そのくせ、責任は男にすべて背負わせる。
「ずるいぞ、こん、なっ……あぅっ、はっ、ふああッ」
 奥歯をかみしめようとしても、あごの力が入らない。
 だらしなく弛緩した口からは荒々しい吐息と透明なヨダレが漏れていた。
「はっ、はっ、はあっ、はふぁんッ!」
 服の下で乳首が張っているのがわかる。
 制服ごしに、ブラジャーの上から硬く尖ったそこを摘まんでみると、今度は肩がすくみ上った。
 胸の先端に、ジンジンとした甘い痺れが広がる。それが下半身の快楽とあわさり、頭の中に集約されて一つの大きな官能になる。
 俺は股間にあてがった指を割れ目に差し込むと、敏感な肉芽を裏側から小突いた。
「んひぃっ! ハッ、くうっ、んんぅ!」
 表皮をさすったとき以上の性感が全身を貫く。快感が次から次へと際限なく溢れてくる。
「すげぇ……女って……最高じゃねぇか……! ふぁああ!」
 大胆に脚を広げ、愛液を滴らせる肉穴や勃起したクリトリスを夢中で弄り回した。
 腹の奥が悶え、肉襞がか細い指をぎちぎちに締め付けてくる。なおも内部をかき回し続けていくと、小さな火花が目の前で爆ぜた。
 少女の肉体が頭からつま先まですべて熱に包まれ、歓喜に震えだす。
「ぁっ、はぁッ! んんぅんっ、もう、だめ……イク……! 女のカラダで、イクぅッ!」
 まぶたをぎゅっと閉じ、これまでで一番強烈な快楽を受け取る。
 頭の中が弾け飛び、少女の肢体が痙攣を繰り返した。
「んっ、ひゃぅぅぅっ……! あはぁっ! あぁ、ぁっ、はぁ、はぁ……はぁッ、んぁぅ……」
 全身の力が抜け、頭の中にモヤがかかる。絶頂は一瞬で終わることなく、長い時間にわたって恍惚をもたらした。
「はっ、はぁッ……すごい……なんだ、これ……」
 便器の背もたれにカラダを預け、いまだにおさまらない快感の余韻を味わう。
 こんなものを知ってしまったら、射精の快楽がバカバカしく思えてくる。しかも自慰だけでこの凄まじさだ。
(セックスしたら、もっと気持ち良くなれるのか……)
 男との性交など考えるだけでもおぞましい。だが、今の俺の身体……絶頂を味わった少女の肉体は、ペニスを求めていた。
 いまだにヒクヒクと疼く膣内を、太く逞しい肉棒で満たして欲しい。かき回して、突き上げて、オナニー以上の快感へと導いて欲しい。
「はぁっ……はぁ……んんっ、また、シたくなってきた……」
 自分の股間に付いていた愚息を鮮明に想像していると、カラダが再び疼き始めた。
 男と違い、女は何度でもイケるのだ。今度は乳房も楽しませてもらおうと、制服のリボンに手をかける。
 そのとき、ふいに、扉が開いた。
「あ……?」
 ここが公衆トイレだったことを思い出し、同時に自分が「どちら」に入ったのか思い出す。
「き、君……こんな所で何をしているんだ……!」
 トイレのドアを開けたのは、背広姿の男だった。眼鏡をかけた、真面目なだけがとりえのような顔が、下半身を丸出しにしてぐったりしている俺を見て驚いている。
(見たらわかるだろが……ナニしてたんだよ)
 はばからず喘いでいた少女の声が、このタイミングで現れた男に聞こえていなかったはずがない。
 俺は唇を吊り上げ、スカートをたくし上げて見せた。
 愛液でびしょびしょになった少女の股間に、視線が突き刺さる。
「三万でいいぞ。……一緒に気持ちいいことしようぜ?」
 男の喉がゴクリと鳴り、俺はこみあがる笑いを抑えきれなかった。



つづく





各所に礼賛している本の影響が見られますがご容赦下さい
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