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留守番少女

続かない黒い短編を書いてみます
(少女×憑依×ホラー要素)




「うん、わかった。大丈夫だよ」
 受話器から聞こえるママの声に適当な相槌を打ちながら、私は壁に掛かった時計に目をやる。
 午後八時。いつもならテレビの音や家族の話し声で賑やかなはずのリビングには、私しかいなかった。両親は旅行に出かけ、明日まで帰ってこない。
 初めて一人で過ごす夜は、私をとても興奮させた。いつお風呂に入るのも、いつ食事をするのも自分次第。どれだけスマホを弄っていても怒られないし、もちろん夜更かしだって好きなだけできる。
 一夜限りの自由を満喫するには、まだまだ物足りない。私は一刻も早く電話を切りたくてうずうずしていた。
「はいはい、わかってるってば。それじゃあね」
 えんえんと続くお小言にもうんざりしてきたので、強引に会話を終わらせる。
 まだ何か言いたそうにしていたママを無視して、私は通話を切った。いつまでも子ども扱いしないで欲しいものだ。
「さて、と」
 一仕事を終えた気分で息を吐き、点けっぱなしだったテレビに向き直る。
 ちょうど、芸人とアイドルの二人が廃墟に潜入する場面のVTRが始まるところだった。
 お世辞にもかっこいいとは言えない芸人がアイドルの背中に隠れながら廃墟を進む光景に、スタジオの演者がワイプ画面から笑顔の罵声を浴びせている。
 私もソファに座りながらそれを眺め、「サイテー」とか言いながらお菓子をつまんでいた。
 芸人とアイドルはスタッフが用意した小道具に怯えたり騒いだりを繰り返しながら、ようやくゴールにたどり着く。
 手を取り合って喜ぶ二人を拍手が包み込み、場面がスタジオに切り替わる。お決まりのように『心霊現象が実際に起こっても当番組では責任を持ちません』というテロップが表示され、番組は次のコーナーに移った。
「ユーレイとか、そんなのいるわけないじゃん」
 スティック菓子をくわえながら、やらせ番組を一蹴する。
 オカルトは全部作り物だ。怨念だの呪いだの、そんなものが現実に起こるはずがない。私はそれを踏まえたうえでホラージャンルを好み、偽物の恐怖を楽しんでいた。
「最近、こんなのばっかりだよね……あーあ、つまんない」
 『ガチ』を声高に唱える番組に限ってチープさが目立つ。この番組も、その傾向が目立ち始めていた。
 白けた気分でテレビのリモコンに手を伸ばし、チャンネルを変えようとする。そのときだった。
 けたたましい着信音を響かせ、家の電話が点滅する。
「もー、何?」
 携帯電話が一人一台の時代に、固定電話など時代遅れだ。たいていは見知らぬ相手からロクでもない話が持ち込まれる。なので、私は固定電話にはあまり良いイメージを持っていなかった。
 だからといって鳴り響くコール音を無視するのも落ち着かない。
 仕方なく、セールスなら即切りだと心に決めて私は受話器を取った。
「もしもし?」
 警戒心をむき出しにした、不信感いっぱいの第一声で相手をけん制する。
「…………」
 聞こえてきたのは、音だった。
 ギリギリギリと、きしむような鈍い音が耳朶の中に飛び込んでくる。
 長々と聞いていたくない、不快な音だった。まるで耳元で人間が縛られているような奇妙な臨場感が、寒気となって背中にはりつく。イタズラ電話だとわかりきっていても、その音はなかなか不気味だった。
「……ばっかみたい」
 私は電話を切り、テレビに向き直る。せっかくの一人きりの夜を、こんなことで潰されてしまうのはゴメンだ。
「あれ?」
 画面には、何も映っていなかった。知らない間に電源を落としてしまったのかと思い、リモコンを探す。
 ふいに、真っ暗な画面の中に動くものが見えた。最初は自分の影が映り込んだのかと思ったが、ソレは一定のリズムで左右に揺れていた。
 不審に思いながらしばらく覗き込んでいると、なんとなくその正体がわかってくる。
 足だ。靴下をはいた男の足が、振り子のようにぶらぶらと空中で揺れていた。
 即座に首吊りを連想したのは、さっきの電話のことがあったせいかもかもしれない。
(なんだろ。投稿映像とかかな)
 インターネットで拾った不気味な映像を流すのは、地上波でもよくやることだ。しかしそれにしてはお決まりのワイプ画面もナレーションもなく、ひたすら足がぶらぶら揺れているだけの映像が、少なくとも一分以上流れていた。
 ギリギリギリと、電話で聞いた音が振り子の動きにあわせてスピーカーから流れる。最初は大きく動いていた足の振りが徐々におさまり、縄音もしだいに小さくなっていく。
 やがて画面中央で足の動きが止まると、リビングからはは完全に音が途絶える。
 私は音のない空間で、宙吊りのまま揃った男の人の足を食い入るように眺めていた。
 しばらくそうしていると、突然、男の足が急降下した。首吊りの縄が切れたのだろうか。
 足は画面の下に消え、続けてズボンをはいた下半身が映り、ランニングシャツに包まれた上半身が物凄い勢いでスクロールしていく。
 私は落ちていく男から目を逸らすことができなかった。
 病的な度ほど浮き出た鎖骨を見送り、無精ひげの生えた口元を視界に捉え。
 見開かれた虚ろな両眼と、視線が合う。
 どさりと鈍い音がして、真っ暗なテレビ画面に映るのは反射した私の顔だけとなった。
 丸い目に、柔らかい頬。年の割に幼さが目立つ顔と、ぼうっとした表情で見つめ合う。
「…………あ、え……なに……っ」
 やがて訪れたのは、家から出て行く妻と娘を見送る「私」の記憶だった。
 女の私にそんな相手がいるわけがない。そうした常識的な戸惑いを覚えるよりも早く、初めて見る「過去の記憶」が頭の中に次々と植え付けられていく。
 玄関を殴る借金取りの怒号。裸のまま横たわるたくさんの少女。パトカーのサイレン。
 ゆらゆらと揺れる輪っかを作った麻縄に手を伸ばす。天井の梁がきしむ。自分の首が絞めつけられ、呼吸がかすれ、意識が遠のいていく。
 それらの光景や感覚が一気に押し寄せ、これまでの「私」がめちゃくちゃにされていく。
「…………」
 やがて自分が自分でなくなっていく恐怖心は嘘のように鎮まり、私は胸の内から湧き上がる黒い喜びに口角を歪めた。
 テレビの液晶画面に映る顔は、いままで見たことのもないような醜悪な笑みが浮かんでいる。
 熱のこもった粘着質なまなざしに、だらしなく緩んだ口元。頬には赤みが差し、欲情を抱いているのがハッキリわかる。
 自分の顔に見蕩れているのだ。それがわかっていてもなお興奮は収まらない。むしろ、これが自分の顔なんだと自覚したことでますます動悸が激しくなった。
「うへへっ、変な私」
 呟いた声は、自分が思っていたのとはまるで違う可愛らしいものだった。立ち上がると、身体のバランスや視界の低さにも違和感を覚える。
 さっきまでごく自然に受け入れていた「私」の当たり前が、今はとても新鮮だった。
 低い声や、骨ばった身体とはまるで違う、新しいカラダ。一度は失った肉体を取り戻すことができた喜びに、全身をかき抱く。小さな肩が、ふるふると震えていた。
 小柄で華奢な少女の肉体は、若さという名の活力に溢れている。「私」は童顔を気にしていたはずだが、今はこの顔こそが愛おしい。かつてこの部屋に集まった少女達の中でも上位に入る目鼻立ちだ。
「楽しかったなぁ……あの時は」
 懐かしい記憶を反すうしてみれば、甘美な心地が蘇ってくる。
 愛らしい少女達が絶望に彩られ、私に向かって慈悲を乞い、それらを一思いに踏み潰したときの快感。同じ女として被害に遭った少女たちを憐れむのではなく、加害者の男の立場に思いを馳せ、私の顔が恍惚に染まる。
 あれらをまた聞く事が出来る。味わう事が出来る。
 泣き叫ぶ少女の声を。割れ目から溢れる蜜の味を。
「ん……んぅ……?」
 だが興奮に対して、以前のような暴虐的なまでの熱を股間から感じることはなかった。
 かわりに下腹部が切なげに悶え、むずがゆさに似た感覚が下肢をはじめとしてに全身へ広がっていく。
 スカート越しに、何もない股間(私は女なのだから当たり前だ)へ手を押し付けると、ソコは明らかに熱を帯びていた。
 端をつまんでたくし上げたスカートの中は、レギンスで覆われている。ピッチリと太ももが締め付けられる感触に私はよりいっそう興奮し、指先を中心部へと差し伸ばした。
 つるりとした滑らかな手触りの生地と、女の体でも群を抜いて柔らかい割れ目部分へと指先を押し込む。
「んっ……ふぅっ……!」
 スカート越しに手を押し付けたときよりも、はっきりと熱の出所が感じ取れた。
 ナイロンに包まれた細い指が、ずぶずぶと体の中に沈んでいく。そのたびに背筋がぞくぞくと震え、疼きが快感へと置き換えられていった。
「はぁ、はぁ……ちょっと触っただけで……ン……ふっ……こんな……あはぁ……っ」
 鼻息を荒くしながら、繊維越しに何度も何度も大事な所をつついていく。そのたびに甘い感覚が全身を痺れさせ、脚ががくがくと震える。
 私はたまらず、ソファに倒れ込んだ。仰向けになった状態で、なおも執拗に性器を攻める。指先の動きはより苛烈さを増し、穿いたままのレギンスがますます水気を含んでいった。
 自然と腰が浮きあがり、脚が開いてしまう。はしたない恰好をしているのがわかっていても、止められない。
 両手で掻きむしるように股間を弄り、仰向けのまま弓なりに反っていく。快楽に蕩けきった私のだらしない顔が、真っ暗なテレビの画面に映っていた。
「う、うへ、へへっ、エロい顔だぁ……んぁっ!?」
 突然股間に痛みが走り、慌てて両腕を引く。
 痛みはすぐに治まったが、ジンジンと痺れるような快感が残り火のように体の中でくすぶっていた。
 ワレメとはけた違いの官能をもたらす突起物……そのときになって、ようやく私はクリトリスの存在を思い出した。
 私は女で、股間にあるのは肉棒ではなく秘裂なのだから、そこには陰核もついている。ガムシャラにしごけば精液を放出して終わる男と違い、女の絶頂には何段階もあるのだ。
 割れ目をこすり、またぐらを濡らしながら軽くイキ。クリトリスをつまんでは強くイキ。絶頂の最中に絶頂を迎え、快感の波に意識が溶かされる。この体は、そんな風に出来ている。
 初めて彼氏とエッチをした時のことを思い出し、胸がキュッと締め付けられた。
 目頭が熱く、視界が滲む。幸せだった記憶を振り返り、どうして泣きそうな気持ちになるのだろう。どうして「助けて」なんて思うのかわからない。私は今、こんなにも幸せだというのに。
「ちっ……鬱陶しい」
 せっかく興が乗ってきたところなのに、台無しだ。
 私は乱暴に涙をぬぐい取り、スカートとレギンスを脱ぐとソファの脇に放り捨てた。
 遮る物のなくなった秘所が、外気に当たってピクリとうごめくのを感じる。まるで触ってほしいと催促しているかのようだ。
「うへへ……なら、ぐっちゃぐちゃにしてあげようかな」
 私は改めて両手を性器にあてがい、指先で秘唇と陰核の両方をゆっくりなぞった。
 いままでの私は彼氏の顔を思い浮かべ、あの人の手を想い、どこをどう触られて欲しいか妄想しながらシテいたが、今は柔らかい女体にひたすら感動し、湧き上がる快感に翻弄され、自分自身の淫らな表情にそそられながら欲情を掻き立てていく。
「あ……あっ、いやっ、んあ、ふあ!」
 心にもない拒絶の声を呟き、自分自身を凌辱するスピードを徐々に上げる。少女を犯す喜びと犯される少女の悦楽を同時に味わい、そのたびに恋人とのあたたかい記憶が薄れていく。
 それでも止まるつもりはなかった。
 包皮から飛び出したクリトリスをこね回し、絶頂を迎える。
 鉤型に曲げた指で秘唇の裏側を引っかき、淫らに達する。
 膣肉に突き入れた三本指を掻き乱し、意識を何度もトバす。
「きもち、いい……ああっ、またイク、イクぅ!」
 イッてもイッても果てのない快楽に没入し、心まで白く塗りつぶされていく。
 今の私を、パパやママが見たらどう思うだろう。娘の痴態を見て、父親は理性を保てるだろうか。
 欲望を剥き出しにして襲い掛かってくるだろうか。あの日の「私」と同じように。
「ふひへっ、ひんぅっ、ひゅへへへうっ」
 父親に犯される快楽への期待と止まらない手淫が、私の口からバカみたいな嬌声を漏らす。
 あとからあとから溢れ出る蜜がソファの上へと滴り、シミが作られていった。
 自分の身体から出ているのが信じられないぐらいの大音量で響く卑猥な水音が、絶頂の兆しを呼び込む。
「んぃっ、いっ……く、また、あ、あっ、ああああああああああああああ!」
 がに股に開いた両脚がピンと張りつめるのと同時に、くわえ込んだ三本指を膣肉がぎゅっと締め付ける。
 官能の極致が、また訪れた。
 充分に昂ぶった女体がもたらす爆発に、私の意識が剥がれ落ちていく。イクたびに心がひび割れ、新しい精神に塗り替えられていくようだった。
(だめ……やめ、なきゃ……)
 これ以上イッてしまうと、私は私でなくなる。そんな恐ろしい予感を抱きながらも、アソコを弄り回す手は一向に休まらない。
「やなの、に……きゃうんッ、もう、イキたく、ない……のに! あはぁ!」
 私は泣きながら、気を失うまで自慰を続けた。


 目を覚ますと、私は裸のままソファに寝ていた。
 夜通し弄り回していた乳首やアソコがひりひりと痛む。シーツや床がバケツの水でも引っくり返したのかというぐらい水浸しだ。
「私……何してたんだろ」
 昨夜の痴態を思い出し、自己嫌悪する。どうしてあそこまで乱れてしまったのか、今でも不思議だった。
 最近カレシとご無沙汰なせいで、欲求不満だったのかもしれない。
「……男のモノを入れたら……もっと気持ち良いんだよなぁ」
 私は既に経験しているから、その快感を知っている。
 オナニーよりもずっと甘美な、快楽の濁流。その心地良さに早く溺れたくて、また割れ目から蜜がこぼれ出す。
「あんっ。……じゃあ、パパが帰って来たら…………しようかな」
 両親が帰ってくるまでまだ時間はある。
 それまでは、私の友達と遊んでいよう。
 この家で。
 昔のように。
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非公開コメント

……いい。

No title

たまりませんな!
少女本人としての自己認識を維持したまま、破滅した犯罪者の記憶と意思が混ざり合って歪んでいくの大好物なんですよ(^^)
少女の思い出と男の記憶、双方に基づいた欲情に衝き動かされて自慰に溺れる様子、最高にエロかったです!

コメントありがとうございます

>七篠権兵衛 さん
乱れる少女は良いものです


>nekome さん
明言するのは避けてみましたがしっかり伝わってて良かったです
「わたしを衝き動かすオレ」に影響を受けた部分がたくさんあります。ありがとうございました