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ドロドロした話

ドロドロした話を書いてみました。R18ではないはずです

・ドロドロ編

 やあ、おかえり。おそかったね。
 こんな時間になるまで、いったい外で何をしてたのかな。
 課題のレポートに手間取った? サークル活動で忙しい? それとも……いかがわしいバイトでも始めた? ごめんごめん、冗談だよ。
 でも、そういう話を持ち掛けられたこと、あるだろ? キミ、可愛いし社交的だからさ、変な奴と知り合いになってやしないか心配なんだ。
 付き合う相手はちゃんと選ばなきゃだめだよ。
 この前だって、ほら、あの薄汚いちぢれ毛の男。あんなのを僕たちの愛の巣に招き入れるなんて、何を考えているんだい。
 あぁ、責めるつもりはないんだ。そんな、怯えた顔しないで。
 僕はキミのプライベートにまで干渉するつもりはないよ。だから、うん、キミがどんな交友関係を持とうと、口出しはしないさ。
 本音を言うと、この部屋から一歩も出したくないんだけど……ふふ、安心しなよ。ムリヤリ閉じ込めるつもりなんてないから。
 キミが思っている以上に、僕は自由なキミを愛しているんだ。
 そう。
 追い詰められて、泣きながらわけもわからず許しを乞う、そんな状況で見せるキミの顔が大好きだよ。
 そのくりくりとした愛らしい瞳の隅で光る涙は、とても美しい。歯の根をカチカチと鳴らす半開きの口も魅力的だ。
 緊張したせわしない息遣いは、どんな音楽よりも聴いてて心地が良い。小刻みに震える華奢な身体は一輪の花のように可憐で、一思いに摘み取ってしまいたくなる。
 恐怖に駆られるキミの自由な反応を、僕が奪うはずもないんだ。だから、安心して今まで通りの生活を続けて欲しい。

 それはそうと、いつまでそんな格好でいるつもりだい。家に帰ったら着替えなきゃ。
 ほら、コートを脱いで。もう外は真っ暗だよ。今から出かけようなんて、まさかそんなこと考えていないだろ。
 なんなら、僕が手伝ってあげようか。こう見えて、脱がすのは結構得意なんだよ。
 ……慌てて着替えだしたりなんかして、ふふ、恥ずかしがり屋だね。
 また、ため息なんかついて。最近多いよね。逆に、笑顔はずいぶん減ってしまった。
 この部屋に引っ越してきた時はよく笑う明るい子だと思ったんだけど……まぁ、翳のある今のキミの方が僕は好きだよ。
 それより気になるのは、毎晩のようにうなされていることだ。僕が添い寝しているのに、キミはいったいどんな悪夢を見ているのかな。
 夢の中で、キミはどんなカオをしている? 僕はキミの夢に出てくるのかな。だとしたら、とても嬉しいよ。
 でももしぜんぜん別の相手にうなされているなら……少し、不愉快だ。こんなに近くにいる僕以上に気にかかる存在が、キミの中にいるってことだろ? 妬けちゃうな。
 そうだ、彼女を呼ぼう。キミの友達の、あの娘だよ。あの娘が協力してくれれば、きっと快適に眠れるはずだ。うん、そうしよう。
 あれ、どこに行くんだい。
 お風呂に入るの? なら、僕が代わりに連絡してあげるよ。
 電話、借りるね。
 ……うん、これでよし。
 あの娘が来るまでまだ時間あるし、一緒に入ろうか。
 あははは、鍵なんかかけて、いったいどうしたんだい。そんなことしたって無駄だって、まだわからない?
 いや、でもせっかくだし今日は変わった方法で入ってみようか。
 ちょうどここに排水口がある。洗面所だから、当たり前だよね。
 ここから流れた水は、配管を通って下水に流れる。子供でも知っていることだ。キッチンや、キミがいま使っているお風呂場から出た水も、ぜんぶ同じ管を通っているんだ。
 これがどういう意味かわかるかい?
 説明は必要ないよね。じゃあ、行くよ。
 ……うぅん、さすがに暗いし、狭いな。それに、水垢や髪の毛がこびりついている。
 掃除はこまめにした方が良いよ。でも、キミに会うためならこのぐらいどうってことないけどね。
 あぁ、お湯が流れてきた。シャワーでも浴びているのかな。
 ふふ、本当にキミは素直じゃないね。なんだかんだ言って、ちゃんと僕を導いてくれる。
 流れるお湯を遡っていけば……ほら、バスルームに到着だ。
 いつ見てもそそるカラダつきだね。後ろ姿までとってもセクシーだ。
 すらりと伸びた細い脚や、小振りでも張りの感じられるお尻がたまらない。補正下着なんて必要ない、キュッとしまったウエストも最高だよ。
 華奢な肩口にかかった黒髪が濡れ光って、すごく綺麗だ。
 お湯加減はどうかな。キミはいまどんな顔をしている? すっかりリラックスしているのか、それとも僕がドアから入ってくるのを心待ちにしているのか。
 うん? どうしたんだい急に振り向いて。僕に気づいた……というわけでもなさそうだ。
 湯船の中に何かいるのかい。不安げな眼差しで、キミはいったい何を見ているんだ。
 少なくとも、僕じゃないことだけは確かだな。
 ねぇ、僕を見なよ。怯えるなら、僕を見て怯えてくれ。
 わかるだろ? 下だよ下。ねぇ……ねぇ、ねぇったら。
 ……はは、やっとこっち向いた。そう、僕がいるのは浴槽じゃない。排水口の方だ
 愛らしい涙目も、恐怖に歪んだ口元も、喉から漏れる上擦り声も、ぜんぶぜんぶ僕が独占すべきものだ。他の誰にも見せやるもんか。
 おっと、足でも滑らせたかい。尻餅をついて、アソコが丸見えだ。
 僕が支えてなきゃ、頭まで打っていたかもしれない。危なかったね。あぁ、お礼はいらないよ。愛する人を守るのは当然の義務さ。
 そんなことよりずいぶん顔色が悪い。シャワーを浴びてるのに、どんどん青ざめてくじゃないか。
 全身をがたがた震わせて……あぁ、たまらない。
 お礼はいいって言ったのに、律儀だなぁキミは。
 じゃあ、もっと良く見せて。怯えるキミの身体に触れさせて欲しい。
 細い足首から、ゆっくりと撫でるように内腿まで……寒くなるとスネ毛の処理とかサボる女性も多いけど、キミは流石だね、スベスベしてて、とても気持ちがいいよ。
 だんだんアソコに近づいてきた。でも、まだ触ってあげない。僕以外の存在に無闇に怯えた罰だ。
 代わりに、おへそを弄ってあげよう。キミがヒトから生まれた証の小さな窪みを、丹念に、舐めるように。
 おっと、叫んだらダメだよ。近所迷惑だろ。
 ……口はもっと後で塞ぐつもりだったのに、予定が変わっちゃったじゃないか。
 本当はおっぱいも弄ってからこうするつもりだったけど……もう、いいよね。キミだって待ちきれないんだろ。
 唇、柔らかいなぁ。ほっぺもプニプニで、まだ幼さが残っている感じがとても良い。
 暴れないでくれないか。ひっかかれたところで僕は痛くないけど、視界が揺さぶられるから嫌なんだ。
 もう、腕も押さえつけてしまおう。……ふふ、キミの身体をこうして包んでいく感覚、何度やってもたまらないね。
 ほら、口を開けて。虫歯なんて一つもない、清潔な歯を僕に見せて。実は僕は歯磨きも得意なんだ。
 前歯から奥歯まで全部で28本。大事なキミの身体の一部だ。一本ずつ、丁寧に磨いてあげよう。
 鼻息が荒いけど、大丈夫かい?
 心臓の鼓動も、だいぶ速い。歯を磨かれるのは、そんなに緊張するものかい? 僕にはわからないな。
 口の中、温かいね。このままもっと深く潜り込んでしまいたい気分だ。
 喉の奥まで満たして、キミの声帯に触れて、食道から一直線に胃の中へ。
 あるいは、肺の方に曲がってみようか。キミの吐息が僕色に染まるなんて、考えてみればとても素晴らしいじゃないか。声を出すのも呼吸をするのも、僕を経由しないと出来ないだなんて、まるでキミの生存権を握っているようでとても興奮するよ。
 どうしよう、やってみたいかも。
 ……うん。でも、愛はゆっくりと育むものだからね。またの機会にしよう。
 よし、磨き終わった。
 報酬はキスで良いよね。奥で縮こまっている、ピンク色の可愛い舌を僕に触らせてくれよ。口の中で擦れ合わせて、絡み合って。ほら、キミも動かして。
 苦しいかい? でも、それだけじゃないだろ。あえぎ声が混ざってきた。僕とキスして、気持ちよくなってきたんだろ。
 もっと感じさせてあげる。少しずつおっぱいも覆って、あぁ、乳首が立ってきてるね。
 思いっきり吸って欲しいかい? 痛いぐらいにつねってあげようか? それとも……乳頭から潜り込んで、直接乳腺を揉んでみようか。
 人間相手じゃ絶対にあじわえない感覚だよ。楽しみだね、ふふふふ。
 うん? チャイム……あぁ、彼女が来たのか。
 それじゃあ、続きはまたあとにしよう。またね。



 やあ、こんばんは。夜遅くにありがとう。
 さっそくだけど、君の親友が寝付けなくて困ってるんだ。もちろん、助けてくれるだろ。
 騒がれるとお隣に迷惑だし、そっといこうか。
 水道管よりも狭い、でも水道管よりずっと清潔な、小さな穴の中。
 君の、耳の中に。
 細ぉく、薄ぅく引き伸ばした僕が……ほら、入っていく。でも君に、違和感なんてないだろ。
 ゆっくり、ゆっくりと。耳の外側も内側も、僕で満たしてあげる。
 鼓膜を抜けて、神経を通って、君の脳まで。
 いまさら違和感に気付いた? もう遅いよ。耳を押さえつけたって無駄さ。
 叫べない? 当たり前だよ、僕は、口を開けろなんて命じていない。僕の許可なしじゃ、君の脳はもうどんな指令も身体に送れやしないんだ。
 そう。いまこの身体の主導権は、僕にある。君は彼女じゃないから、遠慮はしないよ。
 あぁ、恐れることはない。どうせすぐに、何もわからなくなるから。……ほら、消えた。
 君たちは意識と脳は別物だって考えているらしいけど、僕に言わせれば同じさ。
 脳を支配してしまえば、意識はやがて保てなくなる。脳に流れる電気信号を操作してやれば、記憶の改ざんだってできるんだ。
 まぁ、乗っ取り終わった後もわずかな時間とはいえ意識を維持できるんだから、ひょっとしたら脳とはまた別物なのかもしれないけど……どっちでもいいよね。
 重要なのは、彼女の「親友」であるこの肉体だ。
 ほら、ドアが開いた。いきなりやって来た「親友」をちょっと不審そうに、でも友達特有の気安さを感じさせる雰囲気で出迎えてくれた。
 もちろんカメラで相手はちゃんと確認したんだろうけど、油断しちゃだめだよ。
 外見は本人でも、中身が違うなんてこと、よくあることなんだから。
 やっぱりキミは少し用心が足りないみたいだ。そのあたりのことも、よく言い聞かせておかないと。
 今夜は僕のことしか考えられないようにしてあげる。
 悪夢なんて見るヒマもないぐらい気持ち良い時間を過ごして、それから全身が粟立つような恐怖の中で、ぐっすりと眠らせてあげる。
 それもこれも、全部キミのためさ。
 愛してるよ。





・ガタガタ編


 私の住んでいる部屋は、おかしなことばかり起きる。
 棚から物が落ちるのはしょっちゅうだし、床や壁、天井などにはときどき大きなナメクジが這いずったような、湿った跡がついている。
 水詰まりを起こしているのか、排水口の中からゴボゴボと不快な音が聞こえてくるのも日常茶飯事だった。
 隣人の生活音が壁越しからでもわかるぐらいだし、大抵の不満は覚悟していた。大学が近い割に家賃は破格で、何もないはずがないと思っていた。
 それでもひとつだけ、腑に落ちないことがある。
 この部屋に引っ越してから数日後、視線を感じるようになった。特にお風呂やトイレの時は、その感覚がいっそう強まる。
 身体中を舐めまわすようないやらしい視線は、大学ですれ違う男たちが向けてくるものとほとんど同じものだ。
 ブヨブヨと粘ついた気配がこの部屋を取り囲み、気の休まる時がない。なのに視線の元をたどっても、そこには壁や天井があるだけだった。
 ひょっとして、ここは事故物件なんじゃないか。
 この部屋で過去に変死があり、前の住人の霊がさまよっている……とか?
 一度そんな考えに取り憑かれると、嫌な想像があとからあとから湧いてくる。不安に駆られ、不動産屋に以前の住人について尋ねたこともあった。
 話が進むにつれて温和な顔つきだった店主はみるみる眉をひそめ、いかにも不愉快そうな声色で答えてくれた。
 事故物件は契約前に告知する義務があり、もしそんな事件があれば黙っているわけがない、と。店主にしてみれば自分の誠実さを疑われたうえ痛くもない腹を探られたのだから、当然の反応だと思う。
 申し訳ないと思う反面、視線の正体がわからないままの状況に私の精神は疲弊していく一方だ。
 それでも正気を保てたのは、正体不明の視線は部屋の外にまで追ってはこなかったからだ。
 私はサークルの活動やバイトを積極的にこなし、なるべく家に帰らない時間を作った。体力を限界近くまで使い切り、家に帰るとすぐに眠れるようにも心がけている。
 一度、大学の友達が酔いつぶれて仕方なく私の部屋に運んだことがあったけど……私自身もだいぶ酔っていたのか、その時の記憶が定かではない。
 視線は感じなかった。はず。残念ながら全く確証がなかった。
 一体何をしていたのか、完全に記憶が飛んでいる。
 二人そろって裸で寝ていたのも、酔った勢いでなし崩し的にそうなっただけで、別に何もなかった。そう信じるしかない。
 ただ、その日からどうも友人の私を見る目が変わった気がする。
 ぜんぶ思い過ごしであれば良いのだけど……。

 憂鬱な気分のまま、今日も私は忍び込むように家に戻ってきた。
 物音を立てないよう細心の注意払っていたにもかかわらず、玄関に一歩足を踏み入れた瞬間、全身がゾワリと粟立つ。
 視線は今日も私の全身を舐めるように付きまとい、心からゆとりを奪っていく。
 ルーティンのように辺りを見回すが、やはり私以外の人間はどこにもいない。いたらいたで恐ろしいが、実体のない粘ついた眼差しはいっそう不安を煽った。
 家に帰るたびに引っ越そうと思うのだけど、先立つものがないとまったく空想の域を出ないのが現実だ。
 もう一度外に出かけようか一瞬考えたけど、それはそれで暴漢に出くわす危険がある。こういうとき、女は不便だった。
 踏ん切りがつかないまま私はコートを脱ぎ、お風呂の追い焚きを始めた。近頃は夢見まで悪いのか、朝起きると結構な寝汗をかいている。
 今日は、アロマの香りがする入浴剤でも入れてみようかな。そんなことを考えながら、着替えを手に浴室へ向かった。

 湯船に入る前にまず熱いシャワーを浴びて、淀んだ気持ちをリセットする。家の中で唯一と言っても良い、心が休まる瞬間だ。
 でもそれはほんの一瞬で、すぐにまた視線を感じる。
 今度はハッキリと、どこからそれが来るのかわかった。今までない明確な存在感が、すぐ隣で息づいている。
 私は降り注ぐお湯を浴びる姿勢は変えないまま、横目で浴槽を見た。
 いた。
 張ったお湯の中から、人の頭がじわじわと浮かび上がってくる。
 空間を切り取ったみたいに、そこだけが黒いモヤに覆われていた。
 何年も洗っていないような長いちぢれ毛を水面に漂わせて、少しずつ顔がせり上がってくる。
 ソレに瞳はなかった。ぽっかりと穴の空いた虚ろな双眸に睨まれると、シャワーで暖まったはずの身体が一気に冷えていく。
 この世のものではない存在を初めて目の当たりにし、頭の中が真っ白になる。目を逸らすことができない。息が詰まり、呼吸が裏返る。
 くり抜かれたように眼球の欠落した顔は、鼻筋から下を湯船に沈めたままのところで動きを止めた。真っ黒な眼窩の奥からは妬むような視線が感じられ……なかった。
 違う。視線の正体はコイツじゃない。そう思った瞬間、足首にぬるりとしたものが触れた。
 まるでミミズでも這ったような気色の悪い感触に、私は短い悲鳴を上げて腰からくず折れ、そうなることで初めて気が付いた。
 バスフロアの床一面が、青色の粘液で覆われている。
 床に落としたシャワーノズルから流れるお湯にも押し流されることなく、むしろ半透明の粘液は意思を持っているかのように私へ迫った。
 はしたなく左右に開いた脚を、ずるずるとよじ上ってくる。スネから内腿までが瞬く間に粘液に埋没し、生ぬるい感触に包まれていった。
 服を着たままプールに飛び込んだような、ゆるやかな締め付けが下半身を覆い、身動きが取れない。
 腰の下まで私を覆う粘液は、おへその窪みをほじくり返すようにしつこく弄り回す。
「ひっ、やだ、キモイ……! は、離して……!」
 あきらかに人外の相手に話が通じるのかもわからず、私は拒絶の声を上げた。
 粘液はまるでそれが不愉快だとばかりにうごめき、私の顔に飛び掛かってくる。口先が生暖かい感触に覆われ、叫び声はあぶくになって粘液の中に掻き消えた。
 引き剥がそうと爪を立てても、指先がずぶずぶとめり込んでしまいまるで手ごたえを感じない。そうこうするうちに両腕も粘液にからめとられ、抵抗する手段を完全に失ってしまう。
 視界が湯気と涙で滲み、息苦しさに意識が遠のきかけた。
 どうして私が、こんな目に。
 理不尽に苛まれる気持ちをよそに、粘液は唇をこじ開けると上下の歯を一本ずつ撫でるように動き始めた。
 弾力のある液体は、グミのような歯触りだった。とはいえ、噛む気なんて到底起きない。
 どこを見ても目玉らしきものはないのに、粘液からは視線をたしかに感じる。ねちっこい、浴びるだけで鳥肌が立つようないやらしい視線は、私を悩ませていたものと同じだった。
 こんなものに見つめられながら生活していたのかと思うと、ぞっとする。
 粘液は舌にまとわりつき、前後にしごき始めた。
「んんっ、んんんん!」
 口内の唾液が吸われ、代わりに自分のものではない液体が口の中を満たしていく。呑み込むつもりなんてないのに、喉は勝手に口の中にある塊を身体の内部へと促してしまう。
 お腹の中にぽつりぽつりと毒を垂らされているような、絶望的な気分だった。
 さらに粘液は私の乳房を覆うと、人の手では再現不可能な動きで胸を揉んできた。何本もの人差し指が縦横無尽に胸の上を這い回る動きはまるで虫のようで、否応なく嫌悪感を掻き立てられる。
 それなのに、私の身体は興奮していた。
 口の中をグチャグチャにかき回され、粘液に四肢を呑み込まれ、気色の悪い方法で胸を愛撫され────にもかかわらず、肉体は快感を得ている。
 思い通りにならない自分の体に私はますます恐怖を覚え、いよいよ正気を保てそうになかった。
「あ……れ……?」
 ふいに、粘液の感触が身体から離れた。
 息苦しさもなくなり、遅れて手足が自由に動くことにも気づく。床一面を覆っていた青い粘液は、跡形もなく消えていた。
 幻覚、だったのだろうか。
 シャワーヘッドから放たれるお湯が、小さなさざ波を作りながら排水口へと流れていく光景を、私は涙目のまましばらくみつめていた。
 玄関のチャイムが、浴室に響く。
「ひっ……!」
 何気なく顔を上げた瞬間、換気口の中に消えていく青い粘液が見えた気がして私は短い悲鳴を上げた。やっぱり、アレは幻なんかじゃない。
 私は転がり出るようにお風呂場から離れ、急いで着替えを手にした。
 換気口だけでなく浴槽の方も気になったが、確認する勇気はなかった。


 ドアを開けると、見知った顔が笑みを浮かべていた。
「こんばんは。入っていい?」
「え、ちょ、ちょっと……!」
 私の返事も聞かず親友の彼女は玄関を上がり、部屋の中に入ろうとする。こんなに積極的だっただろうか。
 だいいち、どうしてこんな時間に?
「待って。あの、さっき、おかしなことがあって……!」
 私がそう言うと、廊下を半分ほど進んだところで彼女はピタリと足を止めた。
「うん、知ってるよ」
 ゆっくりと、彼女の首が回る。
 右耳の入り口に、青い粘液がまとわりついている気がした。した、だけ。気のせいだ。そうに違いない。
「不安なんだよね。でも、もう平気だよ」
 身体中を舐めまわすような、下心いっぱいの視線が、私を射抜く。
「今夜は、『僕』がついているから」
 細められた彼女の目は、透き通るような青みがかかっていた。



たぶん、初の粘液系憑依
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