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短編「ABCオブTS」 K

めっちゃ寒いっす

「ABCオブTS」という短編を進めています
英単語26文字を頭文字にした短編です

表サイトの投票所でリクエストを募った結果、素敵な単語を教えていただきました
ありがとうございます


knowledge -知識-

で、いいんですよね?
和訳がついていなかったので適当に訳しました
「はぁ」
 薄暗い夜道を歩く少女の口から白く濁ったため息が吐き出され、すぐにかき消される。
 しかし彼女の心から憂鬱は拭えず、足取りは重たいままだ。
「やだなぁ……」
 彼女の心を悩ませているのは、1ヵ月後に迫った高校受験だ。
 勉強のために少女の両親は塾通いを強く薦めてきた。冬の到来はとっくに告げられ、家路に付く頃にはもう完全に日が落ちている。そのことも彼女の気持ちを落ち込ませる要因だった。
 友達と遊ぶ暇も、カレシとデートをする暇もない。それもこれも全て、受験なんかにかかわっているせいだ。
「はぁ~、頭の良くなる薬とかないかなぁ」
「ございますよ」
「!?」
 袋をかぶせたようなくぐもった声が正面から聞こえ、少女の足が止まる。
 目を凝らすと、明滅を繰り返す街灯の下に全身黒づくめの男が佇んでいた。
 明かりが消えるたびに男が闇と融合し、輪郭が消える。
 かと思えば明かりが点くたびにパッと現れ、先程よりもわずかに距離を詰めている。
 恐ろしい妖怪に出会ったような気分で、少女はその場から動けなかった。
「貴方の悩み、打ち明けてみませんか? 大変有意義な時間をお約束します」
 真正面まで来たところで、男が再び声を発した。
 夜だというのに黒いハンチング帽を目深に被り、逆光に照らされた男の顔を見ることは叶わない。
 通常ならば真っ先に逃げ出していただろう。それほど、その人物は怪しさで満ちていた。
 しかし受験の辛さが怪人物の存在を上回り、少女はつい言葉を交わしてしまう。
「あるの? 薬……」
「ございますとも。頭の良さは、要は大量の知識があれば良いのです」
「大量の、知識……」
 男の声にはひきつけられ、少女の警戒心がさらに瓦解していく。
 頭の良くなる薬。そんなものがもし本当に存在するのなら、もう受験勉強に悩む必要はなくなる。
 塾に行かなくていいし、友達とも遊べるし、カレシともっと会える。
「いくらですか? ください!」
 気がつけば少女は、そう言っていた。それほど、受験勉強からの解放は魅力的だった。
「まぁ、そう焦らずに……それに、お代は結構ですよ」
 言いながら、黒づくめの男はビジネスバッグの中から錠剤の入ったビンを取り出した。
「コレを飲めば、あなたはさまざまな知識を得られます。ただし、用法や用量は必ずお守りください」
 白い錠剤が詰まったビンは軽く、重さはほとんど感じない。怪しげな薬を手にとったことで、少女はにわかに不安を覚える。
「麻薬とかじゃないですよね……? 副作用とかは?」
「ございません。何かありましたら、こちらにご連絡を」
 男は不気味な含み笑いを漏らし、少女に名刺を渡した。
「『あなたの人生を変えます。黒川』……なんて読むんですか、これ?」
 少女が顔を上げると、黒づくめの男は一瞬の消灯と共に、完全にその姿を消していた。



「うー、わかんないよぉ~」
 その晩、少女は自室で悶絶していた。
 塾から渡された過去の問題集を前にしてから、わずか五分のことだ。
 数学の問題文はもはや異国語にしか読み取れず、どばどばと増え続けるストレスに対し正気度が目減りしていく。
「……」
 唸り散らすだけの装置に成り下がった少女の目が、ふいに、机の端に置いてある小さなビンに止まる。
 手のひらサイズの小さなビンには、白いラベルが貼られていて、『実在の家庭教師が持つ知識を貴方へ!』というあおり文句が印刷されていた。
 『コレを飲めば、あなたはさまざまな知識を得られます』。男は、確かにそう言った。
 副作用はないという言葉を鵜呑みにしたわけではない。だが、少女はこの苦しみから逃れられるならと、わらにも縋る思いでビンを空け、錠剤を呑み込んだ。
 ……だが、いくら待っても変わった実感が湧かない。いやいやながら問題集に目を向けても、答えがパッと閃くということはなかった。
「なんだ、やっぱりインチキか」
 頭の良くなる薬などあるわけがない。一瞬でも信じ、期待してしまった自分が愚かなのだ。
 そう思うとますます勉強になど手を付けられなくなり、少女はふてくされるようにしてベッドに入った。


 翌日。
 少女は数学の授業中に実施された小テストで、自らの変化に初めて気がついた。
(うそ……わかる……わかるよ!)
 異世界言語だとばかり思っていた問題文は、どうしてこんなものに悩んでいたのかとさえ思うほどに単純で、簡単な問いかけだった。
 どのような公式を当てはめればいいのか。どのような証明をすればいいのか。
 まるで他人のノートを書き写しているような感覚が頭の中に広がり、それが自らの知識としてすりかわっていく。
 解答欄を全て埋め終えたのは、テスト開始からわずか五分後のことだった。

「すっごいじゃーんっ、どうしたの?」
 授業を終え、数学教師が出て行くと女友達が色めき立った様子で声をかけてきた。
 先程の小テストはその場で採点され、少女は見事に満点をはじき出したのだ。つい先日まで共に赤点の見せ合いをしていた友人にとって、少女の快挙はウソのような出来事だった。
「ふふん、実力よ、実力。本気を出したら、あんなものどうってことないわ」
「うわー、すっごーい。すっごーい」
 馬鹿の一つ覚えのように、同じ単語を繰り返し使い賞賛してくる。
 以前ならその天真爛漫な素振りに『かわいいな』と思っていた。しかし今はなぜだか、友人の仕草一つ一つがウザったく感じる。
(なんだろ……この子が、すごくバカに見える)
 成績の良し悪しなど関係なく親友だった相手を、まるで見下すような目で見る。にもかかわらず、少女の心に罪悪感は芽生えなかった。
「ね、ね。アタシにも勉強教えてよ。英語がちょっとピンチでさー」
「う、うん。じゃあ……今日、ウチに来て」
 友人にせがまれるまま、少女は勢いに負け頷く。
 だが同時に、同じ底辺同士だった相手が自分に教えを乞う様は、なんともいえない優越感をもたらした。


 一度家に戻ってから来ると言って別れた友達を待つ間、少女は一人きりだった。
 勉強机の上には、錠剤の詰まった小さなビンが置いてある。たった一錠飲んだだけであれほどの知識が身についたのだ。全てを飲み終えたときを想像すると、自然と顔が緩んできた。
「ふふふ……」
 上機嫌のままノートと教科書を広げ、友達が来るまでの慣らしにと英語の問題集に取り掛かる。
「あれ」
 ずらりと並んだアルファベットが、意味不明の羅列にしか見えない。
 どんなに頭を回転させて読み解こうとしても、小テストのときのようにスラスラ知識を引き出せなかった。
「もしかして、効果切れ?」
 慌ててビンを手に取り、ラベルに書かれた小さな文字を読んでいく。
「『一日一錠を目安に、用途に応じた知識を身につけてください』?。なによ、用途に応じた知識って……」
 昨日飲んだときは、数学の問題を解いていた。だから、数学の知識が身についた?
 確証はないものの、少女はおそらくそうだと判断した。ならば、今飲めば英語の知識も得られるはずだ。
「あぁ、で、でも、どうやって教えたら……」
 薬で得られる知識は感覚的なもので、口頭では伝えにくい。説明自体も、バカな友人にもわかりやすい言葉に噛み砕いてやらなければならない。
 語彙、説明力、それに英語の知識。どれか一つが欠けても彼女は理解できず、バカの癖に自分をバカにした目で見てくるだろう。優越感を知った少女には、それは耐えがたい苦痛だった。
「どうしよう……どうしよう……!」
 黒づくめの男の声が脳裏に響く。
 『用法・用量は必ずお守りください。か・な・ら・ず・ですよ』
「一日一錠を目安に……目安に?」
 目安はつまり基準であり、正確なボーダーラインなど存在しないのではないか。
 そう思うのと同時に、玄関のチャイムが鳴る。友人が来たのだ。
「う、うう……えぇい!」
 焦りに突き動かされるまま、少女は小瓶の中の錠剤を呷るように口に含んだ。



 一つのテーブルに肩を並べて、少女は勉強を教えていた。
「そう。だからここに入る言葉は……」
「ああー、なるほど~。すっごいねー。わかりやすーい」
 目をきらきらと輝かせて、友達は尊敬の眼差しを向けている。
 そんな純粋な目を向けられると、つい、こう思ってしまう。
「滅茶苦茶に犯してぇ……」
「え、何?」
 きょとんとしてこちらを向く友人の顔を見て、彼女はますます確信した。
 このタイプは経験上、犯されても訴えてこない。
 それが知識として頭の中にある少女は、迷うことなく友人の肩を抱き、そのまま彼女を押し倒した。
「え? え?」
「くく……さぁ、特別授業を始めるぞ」
 まるで男のような喋り方をする少女は、残忍な笑みを浮かべて友人を見下ろしていた。

 ………………

 ────公園のベンチで新聞を広げる男がいる。
 『家庭教師、教え子を暴行』という小さな記事を一瞥し、黒づくめの男は顔を上げた。
「思考は知識によって日々変化していきます。知識を得る前と得た後で、まったく同じ思考をすることは不可能でしょうなぁ」
 民家から響く少女の嬌声を背に、彼は新聞を捨てると何処かへと立ち去っていった……。




某セールスマン再び
……いや、三度目か
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No title

これは素晴らしい薬ですね!
当然勉強の知識も身についちゃいますよね~と思ってたら期待通り。
やはり色んな性職者を元にした薬があるんでしょうか。どんどんばら撒いてほしいです!

Re: No title

>nekome さん
コメントありがとうございます
スタンダードなオチですが楽しんでいただければ嬉しいです

こんな素敵アイテムを無償で提供してくれる怪人物になら、いくらでもドーンッされたいですねー