短編「ABCオブTS」 M
「ABCオブTS」という短編を進めています
英単語26文字を頭文字にした短編です
表サイトの投票所でリクエストを募った結果、素敵な単語を教えていただきました
和訳がなかったので勝手に訳しましたが ありがとうございます
means -財力-
あのジイさんのインタビューはやめておけ。
先輩からそう忠告を受けていたにもかかわらず、俺は何かと黒いウワサの絶えないM氏にアポを取り、インタビューを取ることに成功した。
「いやぁ素晴らしい豪邸ですね」
応接間へ通され、向かい側の椅子に座る醜悪な老人に社交辞令を送る。実際、氏の暮らす屋敷はまるで映画のセットに出てきそうな立派な洋風建築だった。
だが、交通の便が悪すぎる。都心から車で三時間も離れたこの豪邸にたどりつくまで、何度地図を広げただろう。
「ククク……遠いところよく来てくれた。それで? いくら欲しい」
「は?」
「むろん、というか言うまでもなくワシは持っておる……金をッ! ゆえに遠慮せず、記者殿の希望額を言うが良い」
「ちょ、ちょっと待ってください。何の話ですか」
俺は困惑しながら、いやらしい笑みを浮かべる老人の言葉を制した。
もちろん、俺は金を無心しに来た訳ではない。ウワサの真相を尋ねたいだけだ。
それとも彼は、すでにこちらが『黒いウワサ』の正体をつかんでいると思っているのだろうか? その口止め料を払うと、そう言っているのか?
「おぉ、これは失礼した。ところで記者殿は……金で買えぬものは、この世にあると思うかね?」
「は、はぁ……」
なんなんだこの老人は。
突然金の話をしだしたかと思えば、今度は金で買えないものがあるか、だと? インタビューをするのは俺の方だ。
が、ここで機嫌を損ねてしまっては目も当てられない。俺は素直に「愛ですか?」と答えた。
「カカカッ……愛か、なるほどな」
ツバを飛ばし、天井を仰いで笑う。しかしそれは一瞬で憤怒の表情に変わった。
「バカがッ!」
「!?」
「違うわ、まるで! 笑止ッ。まったくもって笑止千万!」
どうやら俺の答えはお気に召さなかったらしい。金しか信用しないタイプの人間なのだろう。
慟哭した老人は息切れをしながらテーブルに手を付き、そしてまた、にんまりと口を歪めた。
「最近では……そんな甘っちょろいことを言うカップルを、金の力で滅茶苦茶にしてやるのがワシの娯楽になっておる……」
目まぐるしく喜怒哀楽を変化させ、最低の趣味を得意げに語っている。このぶんでは、黒いウワサのほとんどが真実だったとしてもなんら不思議ではない。
と、そこで黒服の男が応接室のドアを叩いて現れた。
「失礼します。例の男女が堕ちました」
「おぉ、わかったすぐに行こう」
老人は杖を手にして立ち上がり、俺を見て醜悪な笑みを浮かべた。
「カカカ……キミは実に運が良い。ついてきなさい」
「は、はぁ……」
わけもわからぬまま、俺は黒服に先導される老人の後をついていった。
壁の一面がガラス張りの部屋に入った途端、気色の悪い男の叫び声が俺の耳を貫く。
≪いやああッ、あたしのカラダに変なことしないでえええええ!≫
「なっ、な!?」
「おほほほ、間に合ったか」
おぞましい声が聞こえたというのに、老人はむしろ楽しそうな表情を浮かべている。
わずらわしそうに杖を投げ捨て、まるで子供がショーケースを覗くようにガラスの壁に張り付いた。
「ふほほほ、これじゃあ……これが、たまらん……ッ!」
よだれを流し、ガラスの向こう側にある薄暗い部屋を眺めている。
生活感のまるでない六畳ほどの空間に、三人の人間がいた。
若い男女は裸で抱き合い、少し離れたところで太めの男性が膝をついて彼らを見つめている。
≪ねぇ! やめてよ、まーくん! それ、あたしじゃないんだよ!?≫
気持ちの悪い口調の男性が、涙を流しながら良くわからないことを叫んでいる。対して若い男女、女の方は特に下品で嗜虐的な笑みを太った男に向けていた。
≪ざーんねーんでしたー。もうまーくんは僕を愛しているんでーす≫
≪っていうかさ、鏡見た? 今のお前なんか、愛せるわけねーじゃん≫
≪そ、そんな……っ! どんな姿になっても愛してくれるって言ったじゃない!≫
≪あー、うるせーな。キモイ声でぶひぶひ鳴くんじゃねぇよ! 萎えちまっただろうが!≫
≪それはたいへん。みぃちゃんのお口で、元気にしてあげますからねー≫
≪やだっ、やだあああああああッ!!≫
「……」
絶句をするしかない。
何だ、あの三人は、何を言っている?
「どうかな記者殿……これが、金の力で愛を買った瞬間だ」
「あの、これは、いったい?」
「カカカ……ゲームだよ。『もし愛しい女が、醜い男とカラダを入れ替えられたら? それでも彼女を愛せるか?』」
「カラダを、入れ替える?」
そんなこと、できるはずがない。
だが、氏の黒いウワサには脳の研究や人体実験をしているという話がある。
現実的に考えてありえない。しかし、目の前で繰り広げられる会話は、それを前提にしなければ不自然だった。
「前金として100万。見事愛を貫いたカップルには、希望するだけの金を用意しておる。もっとも、勝者は皆無だがの」
醜悪な男の外見になった恋人を愛することはできず、挑戦者の男は結局、恋人の姿を得た元男と性行為に及ぶのだそうだ。
≪う、うぉ……舌が絡みついて……あ、アイツなんかより全然すげぇ≫
≪んちゅ……ちゅぱ、ふひ、そりゃ、んっ、男の気持ちいいところは、よぉく知っているからね……ぢゅるるっ≫
「かかっ……女のカラダを得た男は、自慰行為に没頭するからのぅ。目の前で痴態をさらす女と、愛をせがむ気持ちの悪い男……どちらに心が傾くかなど、火を見るよりも明らかだ」
女のストロークが激しくなり、男が彼女の肩を掴む。
女性の口元から白濁とした液体があふれ出たのはそのすぐ後だった。
「そういえば、記者殿よ」
老人が振り向く。
袴姿だというのに、股間は傍目にもわかるほどに激しくそそり立っていた。
「キミには、婚約者がいるそうじゃないか……」
歪んだ笑みを浮かべる老人に、俺は心底から恐怖を抱くのだった。
ざわ…ざわ…
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先輩からそう忠告を受けていたにもかかわらず、俺は何かと黒いウワサの絶えないM氏にアポを取り、インタビューを取ることに成功した。
「いやぁ素晴らしい豪邸ですね」
応接間へ通され、向かい側の椅子に座る醜悪な老人に社交辞令を送る。実際、氏の暮らす屋敷はまるで映画のセットに出てきそうな立派な洋風建築だった。
だが、交通の便が悪すぎる。都心から車で三時間も離れたこの豪邸にたどりつくまで、何度地図を広げただろう。
「ククク……遠いところよく来てくれた。それで? いくら欲しい」
「は?」
「むろん、というか言うまでもなくワシは持っておる……金をッ! ゆえに遠慮せず、記者殿の希望額を言うが良い」
「ちょ、ちょっと待ってください。何の話ですか」
俺は困惑しながら、いやらしい笑みを浮かべる老人の言葉を制した。
もちろん、俺は金を無心しに来た訳ではない。ウワサの真相を尋ねたいだけだ。
それとも彼は、すでにこちらが『黒いウワサ』の正体をつかんでいると思っているのだろうか? その口止め料を払うと、そう言っているのか?
「おぉ、これは失礼した。ところで記者殿は……金で買えぬものは、この世にあると思うかね?」
「は、はぁ……」
なんなんだこの老人は。
突然金の話をしだしたかと思えば、今度は金で買えないものがあるか、だと? インタビューをするのは俺の方だ。
が、ここで機嫌を損ねてしまっては目も当てられない。俺は素直に「愛ですか?」と答えた。
「カカカッ……愛か、なるほどな」
ツバを飛ばし、天井を仰いで笑う。しかしそれは一瞬で憤怒の表情に変わった。
「バカがッ!」
「!?」
「違うわ、まるで! 笑止ッ。まったくもって笑止千万!」
どうやら俺の答えはお気に召さなかったらしい。金しか信用しないタイプの人間なのだろう。
慟哭した老人は息切れをしながらテーブルに手を付き、そしてまた、にんまりと口を歪めた。
「最近では……そんな甘っちょろいことを言うカップルを、金の力で滅茶苦茶にしてやるのがワシの娯楽になっておる……」
目まぐるしく喜怒哀楽を変化させ、最低の趣味を得意げに語っている。このぶんでは、黒いウワサのほとんどが真実だったとしてもなんら不思議ではない。
と、そこで黒服の男が応接室のドアを叩いて現れた。
「失礼します。例の男女が堕ちました」
「おぉ、わかったすぐに行こう」
老人は杖を手にして立ち上がり、俺を見て醜悪な笑みを浮かべた。
「カカカ……キミは実に運が良い。ついてきなさい」
「は、はぁ……」
わけもわからぬまま、俺は黒服に先導される老人の後をついていった。
壁の一面がガラス張りの部屋に入った途端、気色の悪い男の叫び声が俺の耳を貫く。
≪いやああッ、あたしのカラダに変なことしないでえええええ!≫
「なっ、な!?」
「おほほほ、間に合ったか」
おぞましい声が聞こえたというのに、老人はむしろ楽しそうな表情を浮かべている。
わずらわしそうに杖を投げ捨て、まるで子供がショーケースを覗くようにガラスの壁に張り付いた。
「ふほほほ、これじゃあ……これが、たまらん……ッ!」
よだれを流し、ガラスの向こう側にある薄暗い部屋を眺めている。
生活感のまるでない六畳ほどの空間に、三人の人間がいた。
若い男女は裸で抱き合い、少し離れたところで太めの男性が膝をついて彼らを見つめている。
≪ねぇ! やめてよ、まーくん! それ、あたしじゃないんだよ!?≫
気持ちの悪い口調の男性が、涙を流しながら良くわからないことを叫んでいる。対して若い男女、女の方は特に下品で嗜虐的な笑みを太った男に向けていた。
≪ざーんねーんでしたー。もうまーくんは僕を愛しているんでーす≫
≪っていうかさ、鏡見た? 今のお前なんか、愛せるわけねーじゃん≫
≪そ、そんな……っ! どんな姿になっても愛してくれるって言ったじゃない!≫
≪あー、うるせーな。キモイ声でぶひぶひ鳴くんじゃねぇよ! 萎えちまっただろうが!≫
≪それはたいへん。みぃちゃんのお口で、元気にしてあげますからねー≫
≪やだっ、やだあああああああッ!!≫
「……」
絶句をするしかない。
何だ、あの三人は、何を言っている?
「どうかな記者殿……これが、金の力で愛を買った瞬間だ」
「あの、これは、いったい?」
「カカカ……ゲームだよ。『もし愛しい女が、醜い男とカラダを入れ替えられたら? それでも彼女を愛せるか?』」
「カラダを、入れ替える?」
そんなこと、できるはずがない。
だが、氏の黒いウワサには脳の研究や人体実験をしているという話がある。
現実的に考えてありえない。しかし、目の前で繰り広げられる会話は、それを前提にしなければ不自然だった。
「前金として100万。見事愛を貫いたカップルには、希望するだけの金を用意しておる。もっとも、勝者は皆無だがの」
醜悪な男の外見になった恋人を愛することはできず、挑戦者の男は結局、恋人の姿を得た元男と性行為に及ぶのだそうだ。
≪う、うぉ……舌が絡みついて……あ、アイツなんかより全然すげぇ≫
≪んちゅ……ちゅぱ、ふひ、そりゃ、んっ、男の気持ちいいところは、よぉく知っているからね……ぢゅるるっ≫
「かかっ……女のカラダを得た男は、自慰行為に没頭するからのぅ。目の前で痴態をさらす女と、愛をせがむ気持ちの悪い男……どちらに心が傾くかなど、火を見るよりも明らかだ」
女のストロークが激しくなり、男が彼女の肩を掴む。
女性の口元から白濁とした液体があふれ出たのはそのすぐ後だった。
「そういえば、記者殿よ」
老人が振り向く。
袴姿だというのに、股間は傍目にもわかるほどに激しくそそり立っていた。
「キミには、婚約者がいるそうじゃないか……」
歪んだ笑みを浮かべる老人に、俺は心底から恐怖を抱くのだった。
ざわ…ざわ…

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