Divider -ディバイダー 3
下衆な思想の男が主人公の、憑依系の話です
ゆるゆる更新します
確認
*この物語はフィクションです
実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません
*主人公は女を犯したいと常々思っているゲス野郎です フェミニストな人は見てはいけません
*以上を理解している方のみ閲覧をお願いします 不快になっても責任は負いません
Divider -ディバイダー 3 「二人の俺」
自分の意思を介さずに動く自分自身を見るのは思った以上に気色の悪い光景だった。
『俺』が送りつけてくるぶしつけな視線も不快感の一端を担っている。肌がぞわぞわとする。
「その格好……お前、痴女だったのか」
(うわ……っ)
自分の欲望が褒められたものでは無いと自覚していたが、他人として客観的に見てみれば忌避される理由が改めてよくわかった。
ギラギラした眼差しに加えて下卑た笑みまで浮かべた自分が、こんなにも醜く見えてしまう。
「ま、待て待て。ストップ。俺は、お前だ」
「はぁ?」
欲望を剥き出しにした表情に耐え切れず、慌てて正体を明かす。
小さな隕石が当たったこと、幽体離脱したこと、マドカの体を乗っ取ったことを手短に伝える。当然そんな話を鵜呑みにするはずは無く、『俺』は怪訝な顔をした。
「憑依ってやつか……でも、そんなことが本当に……」
「考えてみろよ。マドカが俺にこんな話をして、何の得がある?」
それに……と言葉を続け、マドカの顔でいやらしく笑うと見せ付けるようにブラの上から胸を揉む。
「んひっ、金も積まれていない女が、男の前でこんなことすると思うか?」
「……マジかよ……ははっ!」
どうやら納得したようだ。
目の前の俺にとっては、自分の自由に出来る女を手に入れた気分だろう。おのずと、次に出てくる台詞も予想できる。
「ってことは……星崎のその身体、俺の好きにしていいんだよな?」
いやらしい視線が、胸や下肢を舐めるように行き来する。
やらせろ、とそう言っているわけだ。
その気持ちはわからないでも無いが、女として男に抱かれるなんざいくら相手が自分であろうと気分が悪い。
俺は俺の意思で、このカラダを存分に堪能するつもりだ。
といっても女の快感は気になる。
オナニーでアレだけよかったのだから、実際にセックスをしたらどれだけ気持ちがいいだろう。
バイブ代わりとしてコイツに相手をしてもらうのも良いかもしれない。だが、それはまだ先の話だ。
「がっつくなよ。チャンスは今しかないってわけじゃないんだ」
「なんでそう思う? 星崎になってるのが一時的なものじゃないっていえるのか?」
「……なるほど」
そういえばそのあたりの事はまったく考えていなかった。
漫画なんかじゃ、人間を乗っ取った幽霊は好きなときに身体から離れている。だが俺はマドカに乗り移ったままだ。カラダから出て行こうとイメージをしても、ぜんぜん状況は変わらない。
コイツの言う通り一時的な憑依状態かもしれないし、逆にずっと元に戻れない可能性もあった。
なら、やれるときにヤッておくのも一つの手か。
そう流されかけたとき、星空の下で聞くには無粋な電子音が鳴り響いた。
「携帯か?」
だが俺のじゃない。ということはマドカのだ。
「無視しろよ」
「そういうわけにも行かないだろ。困るのはお前だぞ」
もし電話の相手がマドカの身を案じて掛けてきたのだとしたら、真っ先に疑われるのは俺だ。下手をすれば警察沙汰にもなりかねない。
騒ぎになるのは出来るだけ避けた方が良い。
「携帯は……制服の胸ポケットか」
目を閉じ、自分の意識をマドカと同調させる。
奇妙なもので、そうすると『センパイ』の隣で下着姿をさらけ出している状況が途端に恥ずかしくなってきた。
「どうした? 出るなら早く出ろよ」
「わ、わかってます」
まだ慣れていないのか、必要が無いのに俺の前で口調を『わたし』にしてしまう。
馴染みの無い舌打ちをして、音を頼りに脱ぎ散らかした制服からケータイを手に取る。
ディスプレイには、『お姉ちゃん』と表示されていた。
*────
電話の呼び出し音が増えるたびに、星崎奈央(ホシザキナオ)の不安は膨れていった。
三つ離れた妹の円(マドカ)は今日、流星群を見ると言って夜遅くに外出をした。両親は仕事の都合で会社に泊まり込みをすることが多く、奈央も六藍学園の生徒だった頃は隙を見て夜遊びに耽ったものだ。
そんな過去があったから、円にも軽い気持ちで外出を許してしまった。
部活の先輩と流星群を見に行くという実に青春的な話だが、懸念が無いわけではない。聞けば、その先輩は男だという。
真夜中に男と二人きり……奈央からすれば気が気でない。慌てて外出を禁止しようとしたが、頬を染めて全幅の信頼を寄せる『センパイ』の話をする妹の笑顔を見て、彼女は何も言えなくなってしまった。
どうやら、妹はその男に想いを寄せているらしい。『日付が変わるまでには必ず帰ること』と厳しく言いつけるだけで精一杯だった。
だが、そんな譲歩をするべきではなかったと激しく後悔している。
日付が変わっても妹は家に戻らず、電話をかけてもコール音ばかりが虚しく響いていた。
「円……お願い……!」
無機質な呼び出し音が十回目に差し掛かり、警察に連絡を入れるべきかと思い始めたときだった。
《……もしもし、お姉ちゃん?》
電話が繋がり、愛する妹の声が受話口から聞こえた。
「ま、円!? よ、良かった…………もう、ばかぁっ!」
《うわっ、どうしたのお姉ちゃん。いきなりひどいよぉ》
妹の声はいつもと変わりない。むしろ普段よりノンキなぐらいだ。
「どうしたのじゃないでしょ? 今、何時だと思ってるの!?」
《え? …………あ~、そっか。そういうことね》
「円?」
ほんの一瞬間が空き、円の口調にわずかな違和感を感じる。だが、その正体はわからない。
《ごめんねお姉ちゃん。今すぐ帰るから》
「本当に? 絶対? すぐ帰ってこなかったら、警察呼ぶよ?」
《ちょっ……心配しすぎ、だよ》
そうかもしれない。だが、奈央は不安で仕方なかった。
言い知れない焦燥感が、一秒でも早く円の姿を見て安心したいと心を掻き立てている。
《それじゃあ、後でね》
通話の切れる直前、まるで冷たい笑みで見下されているかのような妹の声が、奈央の耳にいつまでも残っていた。
────*
「帰る」
俺は脱いだ制服を手早く着替えると、身支度を整えた。
マドカの記憶を利用しているので身だしなみに手こずることも戸惑うことも無い。リボンタイを結び直し、どこからどうみても『いつもの星崎円』を完成させる。
「帰るって……おい、お前は俺なんだろ? 俺がどんな気持ちで女を欲しがっているのか、知ってるだろうが!」
「すぐ帰らなきゃ、ナオが警察を呼ぶ。捕まりたくは無いだろ?」
俺がこのカラダに乗り移ったままなら、口裏を合わせることも出来るだろう。だが、何の確証も無い。
この憑依状態がいつまで続くのか、まずは様子を見るべきだ。
「……くそっ」
「慌てるなって。……そうだな。明日、まだ俺がマドカだったら部室に行く。そのときヤらせてやる」
「……嘘じゃないな?」
(ったく)
まるっきりケダモノだな。
これが自分の本性だと思うと、げんなりしてくる。
「おい、どうなんだよ」
「信じろって。また、明日な」
マドカの荷物を手に、公園の出口に向かう。
他人の体を乗っ取る俺と、小野亘として生きる『俺』。
二つに分かれた俺は、もはや同一ではなく別人だ。
しかし欲望の根っこは変わらない。
俺は、女が、欲しい。
自分の肉体が女だろうが、関係ない。
「ふふっ……待っててね、お姉ちゃん」
マドカの可愛らしい声でノドを鳴らし、俺は記憶の中にある『お姉ちゃん』の裸体に思いを馳せるのだった。
ロックオン完了
