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Divider -ディバイダー 7

表で発表している諸事情の関係でまた更新が滞りそうです
ので、前回の続きだけ置いておきます


下衆な思想の男が主人公の、憑依系の話です

確認
*この物語はフィクションです
  実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません



 Divider -ディバイダー 7 「加東志星」


*────

 六藍学園の剣道部は弱小だ。
 中学時代に全国に進出した功績か、アタシの名前はそこそこに知られていたらしい。
 入部当初、『なんであの加東志星がウチに……』と、先輩も顧問の先生も揃って不思議そうな顔をしていた。
 実際、剣道が強い名門校からの推薦もなくはなかった。それを蹴ってこの六藍学園を受験したのには、もちろん理由がある。
 それは、恋のため。なんて言うと、ちょっと格好付けすぎかなと思う。
 でも、それが偽りの無い気持ちだ。
 昔から勝気で、恋愛とか全く興味のなかったアタシが、初めて本気で男の人を好きになった。一目惚れだった。
 いろいろあって彼が六藍学園の剣道部員だとわかり、今では部活の先輩後輩以上の関係になっている。
 好きな人が傍にいるということは、とても幸せで、すごく安心できることだ。
 だからというわけじゃないけど、似たような境遇を抱えているまどかの恋を、アタシは全力で応援した。

「よう、待ってたぞ」
 まどかと話をしていると、オノ先輩がニヤニヤと声を掛けてきた。
 親友の好きな人に対して悪いけど、この人のことはちょっと苦手だ。
 パッと見は爽やかな印象だが、瞳の奥は異様なまでにギラギラとしている。
 そしてほんの一瞬、まるで品定めでもするように女の子のカラダを無遠慮に眺めてくる。
 その眼差しには覚えがあった。
 アタシの大きな胸を盗み見する男の人たちと同じ、いや、それよりももっと粘ついた感じのいやらしい目つきだ。
 普段ならすぐ隠すはずのいやらしい表情を浮かべたまま、先輩がまどかの耳元で何かを囁く。
「な、なんのことです?」
 まどかは戸惑った様子で、愛想笑いを浮かべていた。珍しい表情だ。
 どうも雰囲気がおかしい。
 二人の間に何かあったのかな。
「ちょ、離し、てっ!」
「!」
 その疑問を払拭するより先に、体が勝手に動いた。
 まどかを強引に連れて行こうとする先輩の手を振り払い、相手が上級生であることも忘れて正面から睨みつける。
「ちょっと、先輩。うちのまどかに何するんスか」
「あ? 邪魔するなよ一年。これは、俺とコイツの問題だ」
 睨み返されるが、全然怖くない。
 本人は凄みを利かせているつもりなんだろうが、アタシは彼の声が震えているのを聞き逃さなかった。
(……っていうか、何コイツ)
 先輩の視線は、アタシの胸を凝視していた。
 数秒前まで確かに睨み合っていた「邪魔者」を、もう「性欲対象」として見なしている。
 鳥肌と一緒に、疑惑が確信に変わった。
 もう、間違いない。
 この男は、ただのスケベ野郎だ。まどかを幸せに出来るはずがない。
(行こう、まどか!)
 そう言って親友の手を引き、不快な男の前から立ち去るつもりだった。
 なのに、アタシの身体はピクリとも動かなかった。
(え……?)
 声も、出せない。全身がジン…と痺れて、指先が震える。
 地面の感触が失われている。立っているはずなのに、足を切り取られて空中に浮かんでいるような不思議な感覚だ。
「ぐっ……」
 背後から、まどかの苦しそうな声が聞こえる。なんとか視線だけ動かすと、頭痛を訴えるように片手で頭を押さえていた。
 そうこうしている間にも、脚の感覚が徐々に消えていく。
 まるで見えない『何か』に食べられている気分だ。下から上へ『何か』が這い上がってくる度に、アタシがアタシではなくなっていく。
 脚が、腰が、お腹が、胸が、目の前にあるアタシの身体が、自分のものとして感じられなくなっていく。
(いやだ……いやだいやだいやだ! 誰か、助けて!)
 逃げ出したいのに、動けない。
 叫びたいのに、声は上がらない。
 視界が、黒く塗りつぶされていく。
 何も見えない。何も聞こえない。
 何も、考えられ……。
(ホクト……せんぱ…………)
 一番好きな彼の名を呼びながら。
 『加東志星』が、アタシから切り離された。

────*

 荒波に叩きつけられたような感覚がようやくおさまり、俺はいつの間にか閉じていた目をゆっくりと開いた。
 目の前に『俺』がいる。どうやら、元のカラダに戻ったわけではなさそうだ。
 しかしなんだ、この違和感……。
 マドカの身長は『俺』より低い。それなのに、見上げるまでもなく俺は自分の顔を視界に入れていた。
 すぐ目の前にいるから、距離が離れているわけでもない。そこで二つ目の違和感に気付く。
(シホはどうした?)
 俺と男の『俺』との間には、シホが立ちふさがっていたはずだ。彼女の頼もしい背中はよく覚えている。
「なんだよ、急に黙って……。まぁいいや、もう邪魔するなよ」
 俺を脇に避けて、前に出る。
 後を追うように振り向くと、三つ目の違和感がそこにいた。
「あれ……わたし……なんでここに…………」
 頭を押さえながら、ぼんやりとした目で辺りを見回しているのは、マドカだった。
 ついさっきまで俺のものだったはずの肉体が、俺の意思を介さずに好き勝手に動いている。
「ほら、行くぞ星崎」
「え、センパイ? きゃあっ!」
 戸惑うマドカを無視して、先程と同じように強引に腕を取り校舎に連れ込む。
 遠ざかる二人の背中を見送りながら、俺は最後に違和感を確認するために、足元を覗きこもうとした。
 見えなかった。
 マドカよりも遥かに大きい二つの膨らみが、視界を遮っていた。
「は、は……おいおいおい……!」
 声も、高いがマドカと違う。
 髪がバッサリと短くなっていた。
「…………どういうことだよ」

 俺のカラダは、シホになっていた。






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